
自筆証書遺言保管制度は、2020年7月から開始された制度で、自筆証書遺言で作成された遺言書を法務局(遺言書保管所)で保管してもらえるサービスです。 この制度では、遺言書の紛失や改ざんを防ぐことができ、遺言者が亡くなった後に相続人などに遺言書の存在を通知してもらうこともできます。 本記事では、自筆証書遺言保管制度の内容や手続き方法について詳しく解説します。
- 自筆証書遺言保管制度は、相続内容が比較的簡単な場合に利用するとよい
- 遺言書の書き方が法的に適正かどうかをチェックしてくれる
- 費用は3,900円で、遺言者の死亡後、関係者に遺言書の存在を通知してくれる制度もある
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遺言書は自分の意思を残し、「争続」トラブルを回避する方法のひとつ
相続が発生すると、財産分与は相続人全員の話し合いによって決まります。 しかし、「法定相続分以外の割合で相続させたい」「法定相続人以外の人にも遺産分与したい」「遺産分割での争いを避けたい」というような場合は、生前に遺言書を作成しておくことが効果的です。遺言書を作成することで、自分の意思を明確に伝え、相続時のトラブルを防ぐことができます。
遺言の種類とメリット・デメリット
遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類がありますが、ここではよく使われる自筆証書遺言と公正証書遺言の特徴を比較し、各々のメリット・デメリットを見ていきます。
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遺言書の種類 | 自筆証書遺言 (保管制度を利用しない場合) |
公正証書遺言 |
---|---|---|
作成方法 | 遺言者が自筆で作成 | 遺言者が口述した内容をもとに公証人が作成 |
証人 | 必要なし | 証人2名の立会いが必要 (依頼できる人がいない場合は公証役場が 紹介してくれる) |
費用 | 無料 | 数万円~数十万円以上 (資産額・相続人数による) |
保管方法 | 遺言者が保管 | 原本を公証役場で保管 |
検認(※) | 必要 | 不要 |
メリット | ●手軽に作成でき、書き直しも簡単 ●費用がかからない ●内容を秘密にできる |
●形式の不備がない ●公証人が遺言の有効性や内容を確認・助言 ●紛失・改ざんのリスクがない ●遺言者が病気などで公証役場に出向くことが できない場合、公証人の出張制度あり ●検認が不要 |
デメリット | ●要件を満たしていないと無効になる ●紛失や改ざんのリスクがある ●検認が必要で手続きが面倒 ●法務局担当者の出張制度はなく、 本人の出頭が必要 ●本人の筆跡に疑義が生じる場合がある |
●証人2人が必要 (未成年者・推定相続人・受遺者および それらの配偶者と直系血族などは証人になれない) ●費用と時間がかかる ●遺言書の存在を相続人が知るには検索が必要 |
(※)検認とは、遺言書の偽造や改ざんを防止するための手続きで、封印された遺言書を家庭裁判所で開封し、相続人立合いのもとで確認する手続きです。 検認には1ヶ月半から2ヶ月程度の時間がかかり、その間は相続財産を動かすことができません。
法務局の自筆証書遺言保管制度とは


出典:法務省 「遺言書保管申請ガイドブック」の情報を基に、クラモア編集部が作成
※1:保管申請の注意事項
・遺言書の保管の申請は、遺言者本人が法務局に直接出向いて行います。代理人による申請や郵送による申請はできません。
・手続きには、顔写真付きの官公署から発行された身分証明書が必要です。
※2:相続人等による手続の詳細及び必要書類等は、法務省HPをご確認いただくか、法務局にお尋ねください。
自筆証書遺言は手軽に作成できる反面、無効となる可能性や見つからないリスクがあるなどのデメリットがあります。しかし、法務局の自筆証書遺言保管制度を利用することで、これらのデメリットを大幅に軽減できる便利な制度です。
遺言書の書き方が規定に合っているかどうかのチェックが受けられる
遺言書は書き方に形式的な要件があり、これを守らないと無効となる可能性があります。 しかし、法務局の自筆証書遺言保管制度を利用すると、申請時に遺言書が規定の形式に合っているかどうかのチェックが受けられるので安心です。 もし形式に誤りがあれば指摘されるため、訂正して再度申請できます。
ただし、このチェックはあくまで形式的な要件に限られ、遺言の内容の有効性や内容についての相談には対応していません。 内容に不安がある場合や、複雑な遺言を作成する場合は、公正証書遺言を選ぶことをおすすめします。
遺言書の原本とデータ化した画像を保管してくれる
法務局は自筆証書遺言書(原本)と、データ化した画像の両方を保管します。 そのため、紛失や改ざんのリスクを防ぐことができます。 また、遺言者本人が直接出頭して申請するため、遺言書が本人の意志のもとに作成されたことが証明され、遺言書に対する疑義が生じにくくなります。
ただし、法務局では認知症の有無など、遺言者の意思能力についての確認は行いません。 そのため、遺言書作成時に遺言者の意思能力が十分だったかどうかを証明することはできません。
遺言者が亡くなると関係者に遺言書の存在が通知される
法務局が遺言者の死亡を確認した場合、申請時に指定された関係者や遺言書に記載された相続人等に、遺言書が保管されていることが通知されます。この死亡時の通知により、「遺言書が見つからない」などのデメリットも解消されます。
検認の必要がない
この保管制度を利用して保管された自筆証書遺言は、家庭裁判所での検認手続きを受ける必要がなくなります。 そのため、相続手続きをスムーズに行うことができます。
費用は?
費用は3,900円で、収入印紙を使って支払います。
遺言者本人の出頭が必要
自筆証書遺言保管制度を利用する場合、必ず本人が出頭しなければなりません。 公正証書遺言のように公証人の出張制度はありませんので、病気などで出向くことができない方は公正証書遺言を選択しましょう。
手続きのしかた
手続きは以下の流れで進めます。
詳しくは、法務局のホームページ「自筆証書遺言書保管制度」をご参照ください。

出典:法務省 「遺言書保管申請ガイドブック」の情報を基に、クラモア編集部が作成
ステップ1 遺言書を作成する
まず、定められた様式に従って遺言書を作成します。 遺言書の作成に関する注意点については、法務省のホームページ「03 遺言書の様式等についての注意事項」をご確認ください。
用紙はA4サイズで、余白や書式に注意して記載してください。 遺言書は自筆で書き、押印しないといけませんが、財産目録はパソコンで作成したものも使用できます。 ただし、財産目録のすべてのページに署名押印が必要です。不動産は登記簿謄本のコピー、預貯金は通帳のコピーを添付できます。 印鑑は実印または認印いずれも可です。
遺言書の控えを残しておきたい場合は、申請前にコピーを取っておきましょう。
ステップ2 申請書を作成する
法務省のホームページから申請書をダウンロードするか、法務局の窓口で申請書を入手できます。
受遺者や遺言執行者などの情報は、住民票に記載された通りに正確に記入しましょう。 遺言執行者を事前に決めておいた方が、相続手続きはスムーズに行えます。 申請書の作成は、第三者に依頼することも可能です。
申請書には「指定する者に対する死亡後の通知欄」があり、遺言者が死亡した場合に遺言書の存在を知らせたい人を指定できます。 法務局(遺言書保管所)は、戸籍担当部局と連携して遺言者の死亡確認後、あらかじめ指定された1~3名(推定相続人や受遺者・遺言執行者など)に遺言書が保管されている旨を通知します。
ステップ3 必要書類を準備する
申請に必要な書類は、以下の通りです。
- 遺言書(ホチキス止めしない、封筒不要)
- 申請書
- 本籍地・筆頭者の記載のある住民票写し(発行後3カ月以内)
- 本人確認書類(マイナンバーカード・運転免許証・返納した人は運転経歴証明書・パスポートなど)
- 手数料3,900円(収入印紙)
- 印鑑(遺言書で使用したもの)
ステップ4 保管する法務局(遺言書保管所)を選んで予約する
遺言書保管申請ができる法務局(遺言書保管所)は、以下のいずれかの管轄にあります。
- 遺言者の住所地
- 遺言者の本籍地
- 遺言者が所有する不動産の所在地
法務省のホームページで法務局(遺言書保管所)の一覧を確認できますので、チェックしましょう。
法務局(遺言保管所)を選んだら、申請の予約を行いましょう。 予約はインターネットまたは電話で30日前から可能です。 当日の予約はできません。 予約方法については、こちらのページをご参照ください。
ステップ5 法務局へ申請、保管証を受け取る
予約した法務局(遺言書保管所)で申請を行います。 所要時間は、遺言書の確認に約20分、データ入力に約1時間、合計で1時間20分程度です。
申請後、保管証を受け取ります。 保管証には、遺言者の氏名・生年月日・遺言書の保管場所・保管番号が記載されています。 遺言書があることを家族などに伝える場合は、保管証のコピーを渡しましょう。
ステップ6 変更・撤回する場合
遺言者の氏名や住所などに変更が生じたときは、遺言書保管官に届け出る必要があります。 また、遺言書の保管をやめたい場合は、保管申請の撤回をすることにより、遺言書を返してもらうことができます。(返還された遺言書の効力には影響はありません)
遺言書の内容を変更したい場合は、保管申請の撤回をして遺言書を返還してもらい、内容を変更した後に再度保管申請をする方法と、撤回せずに新たな遺言書を預ける方法があります。 いずれの場合でも、改めて保管申請の手数料が発生します。
相続人が相続開始後にできる手続き
遺言者が亡くなった後、相続人・受遺者・遺言執行者などは以下の手続きができます。 手続きの詳細は、法務省のホームページをご確認ください。
遺言書が預けられているかどうかの確認(遺言保管事実証明書の交付請求)
遺言者が保管制度申請時に相続人を通知先として登録した場合、その相続人には相続開始後に遺言書の存在が通知されます。 しかし、通知先に登録されていない相続人は、遺言書の存在を知ることができません。 その場合、相続人は法務局に対して遺言書が預けられているかどうかを確認することができます。 この確認は、全国どこの遺言書保管所でも手続き可能です。
また、次に説明する遺言書の証明書(遺言書情報証明書)を誰かが申請・取得したり、遺言書の閲覧が行われた場合には、遺言書保管官がすべての相続人に対して遺言書が保管されていることを通知します(関係遺言書保管通知といいます)。
遺言書の内容の証明書の取得(遺言書情報証明書の交付請求)
遺言書情報証明書は、遺言書の画像情報が全て印刷されており、遺言書の内容を確認することができます。 この証明書は、遺言書原本の代わりとして使用でき、預金の解約や不動産相続登記など、さまざまな手続に利用することが可能です。
遺言書を見る(遺言書の閲覧の請求)
遺言書の原本または、画像の閲覧を請求することができます。 ただし、遺言者が生存している間は、遺言者以外の人は遺言書を閲覧することはできません。
まとめ
自筆証書遺言書保管制度は、自筆証書遺言書を作成したい方にとって、低コストで紛失や書式不備による無効を回避できる非常に便利な制度です。 相続の内容が比較的簡単な場合には特に有効ですが、相続内容が複雑な場合は、公正証書遺言の利用を検討することをおすすめします。 また、遺言者が病気などで出向くことができない場合も公正証書遺言の出張制度を利用しましょう。
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