- 付加価値とは「賃貸物件が持つプラスαの魅力」のこと
- 入居者のインターネット検索の初期段階から重要なポイントになる
- 賃貸物件にも高い耐震性と安心を求める入居者が増えている
賃貸経営に必要な付加価値とは
賃貸経営になぜ付加価値が必要か?
賃貸経営における「付加価値」とは、ひとことで言うと「賃貸物件が持つプラスαの魅力」のことです。 具体的には、入居者の強いニーズがありながら、まだ多くの物件には普及していないため、備えていると強い競争力になる設備・仕様・サービスを言います。
入居者がマンションの部屋探しをする際には、1つの部屋だけを見て決めるわけではなく、複数の候補から最終的に最も気に入った部屋を選びます。
同じエリアには数多くのマンションがあり、それらは競争相手になります。 その中から、不動産オーナーが入居者に自分の賃貸物件を選んでもらうためには、競争相手よりも魅力のある部屋を提供することが重要です。
入居者に選ばれるために強い武器になるのが、「付加価値」です。
入居者は、マンションの「基本的な条件」、「必要な条件」、「付加価値」をチェックしながら部屋選びをします。 「基本的な条件」とは、立地、間取り、家賃、築年数、構造、種類(アパート・マンション・貸家など)といった条件で、同じエリアに同じ条件を満たす物件は数多くあります。 「基本的な条件」は、部屋選びの第一段階での絞り込み程度と考えてよいでしょう。
次に、「必要な条件」とは、入居者の生活スタイルの変化や質の向上、マンション同士の入居競争などの結果、「今はあるのが当たり前」になった設備や仕様をいいます。 その中には、かつては「付加価値」としてとらえられていたものもあります。
たとえば、1980年頃までは、マンションにはエアコン無しが当たり前だったため、エアコンは「付加価値」として捉えられ、エアコン付きの部屋は非常に人気がありました。 しかし1980年代半ばから徐々にエアコン付きの新築マンションが増え始め、やがてほとんどの新築物件にエアコンが付くようになりました。 現在では、エアコンは付加価値ではなく、付いていないと入居が決まらない「必要最低限」の設備の1つになっています。
そして、「付加価値」は、その価値を求めている入居者にとっては、部屋選びの決め手になります。
部屋探しにおける「付加価値」の重要性
部屋探しには、インターネットの検索、不動産会社に行って相談、アパートにある入居募集看板を見て問い合わせ、などの方法がありますが、近年の主流はやはりインターネット検索による部屋探しです。
インターネットの不動産サイトから部屋探しを始める場合の一般的な流れは次の通りです。
不動産サイトで賃貸物件を検索すると、検索条件を指定するページがあります。
出典:クラモア 「東京都の賃貸(賃貸マンション・アパート・一戸建て)を探す」
そこにはさまざまな条件があり、希望の条件にチェックを付けると条件に合った部屋が表示されます。 条件に合う物件数が多ければ、数多くの物件が表示されるので、なかなか絞ることができません。
しかし、検索条件の中に入居者がこだわりたい「付加価値」を見つけてチェックした場合、その項目に合わない物件は表示されずに競争から脱落していくことになります。 「付加価値」を満たす物件数が少ないほど、競争相手も少なくなるため、「付加価値」のある部屋が選ばれる可能性が高まります。
このように「付加価値」は入居者のインターネット検索の初期段階から重要なポイントになります。 なお、検索条件の項目は、実際には前述した「基本的な条件」、「必要な条件」、「付加価値」という3つのカテゴリーにはっきりと分かれているわけではありません。
「付加価値」を高める設備・仕様のキーワード
マンションの付加価値とは、具体的にはどのようなものでしょうか。
ここからは、近年ニーズが高くなっているテーマと共に、付加価値を高める設備と仕様のキーワードを紹介します。
建物の安全・安心
近年、各地で大規模な地震が発生し、建物の倒壊による犠牲者も後を絶ちません。
そのため賃貸物件にも高い耐震性と安心を求める入居者が増えています。
キーワード【免震構造】【耐震等級3】
地震対策には、「耐震構造」、「制震構造」、「免震構造」がありますが、その中でも免震構造には大きな「付加価値」があります。
「耐震構造」は、繰り返しの強い揺れによりダメージが蓄積するため不安があります。 また、地震の揺れを吸収する構造である「制震構造」はまだ認知度が低く、付加価値としての印象は強くありません。
その点、地震の揺れを伝えない構造の「免震構造」は認知度、信頼性も高く、すでに検索条件にチェック項目がある不動産サイトもあります。 今後、ますます「付加価値」としての注目度も高まるでしょう。
なお、耐震構造でも、住宅性能評価制度で「耐震等級3」の評価を得ている建物は、新耐震基準の1.5倍の耐震性を持つため、認知度が高まれば免震構造と同様に安心の「付加価値」となるでしょう。
耐震性の詳しい解説は「不動産オーナーが知っておきたい耐震性のキホン ~耐震・制震・免震の違いと賃貸経営におけるメリット~」をお読みください。
建物の省エネ性能
「2050年カーボンニュートラル」達成のために、建物の省エネ性能の向上は国の大きな課題になっています。 これまでは一戸建て住宅が省エネ性能向上を牽引していましたが、このところ「ZEH」や「太陽光売電」をアピールするマンションが増えています。
キーワード【ZEHマンション】【太陽光売電】
ZEHは、「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の略語で、ひとことで言うと「創るエネルギーと使うエネルギーがプラスマイナスゼロになる住宅」のことです。
ZEHマンションは光熱費が大幅に節約できるため、入居者は大きな経済的メリットを受けられます。 また、太陽光発電により売電収入が得られる物件も入居者にとって大きなメリットとなります。
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キーワード【省エネ性能表示制度】
今後、賃貸住宅の省エネ性能向上を後押しすると考えられるのが、2024年4月に始まった「建築物の省エネ性能表示制度」です。
2024年4月以降に建築確認を申請する建物を販売・賃貸する場合、その建物の広告などに省エネ性能ラベルを表示することが努力義務とされました。 エネルギー消費性能は★の数、断熱性能については家マークの数で表され、マークの数が多いほど性能が高いとしています。
以下は、省エネ性能表示ラベルの例になります。
出典:国土交通省HP 「建築物省エネ法の表示制度」
入居者は、省エネ性能表示ラベルによりマンションの省エネ性能や光熱費を比較することができます。 特に近年はエネルギー価格が大幅に値上りしているため、入居者の関心も高まり、高い省エネ性能を持つマンションの「付加価値」がより重視されるでしょう。
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ライフスタイルの変化への対応
「働きかた改革」「新しい生活様式」「巣ごもり需要」「おうち時間」など、この数年で入居者のライフスタイルも大きく変わり、さらに今後も変わり続けることが予想されます。 その中で、新しいライフスタイルに適応した「新しい付加価値」も生まれています。
キーワード【ペット共生】
賃貸住宅でペットを飼いたいという入居者は、以前から少なくありませんでした。
さらに、高齢者世帯・おひとりさま世帯の増加や、コロナ禍で「おうち時間」を大切にする人が増えたことなどが、ペット飼育を希望する人の増加につながっています。
一方、不動産オーナーから見ると、ペットによる鳴き声や臭いのトラブル、部屋の汚れや傷みなどが懸念され、ペット飼育可のマンションはあまり広がっていません。
そのため、「ペット共生マンション」には今でも高い「付加価値」があります。
近年は、ペットクロスやくぐり戸、ペット用水栓など賃貸住宅用のペット設備・仕様も充実し、補修・交換も容易になってきています。
キーワード【宅配ボックス】
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、オンラインショッピングや宅配が増加し、宅配ボックスの需要も高まっています。 最近では「置き配」も増えていますが、盗難や破損の恐れもあるため、それらの心配がない宅配ボックスには依然として高い人気があります。
キーワード【IoT】
IoTとは、インターネット・オブ・シングの略で、インターネットを通じてモノとモノをつなぐ仕組みをいいます。 給湯器・エアコンの遠隔操作、インターホン・防犯カメラでの留守宅の確認、スマートロックでの遠隔開錠など、さまざまな操作が可能です。
IoTを備えたマンションをスマート賃貸といい、特に若い世代に高い人気があります。 利便性の発展にともない今後ますます「付加価値」として関心を集めるでしょう。
働きかた改革への対応
コロナ禍でのテレワークの普及により広がった在宅勤務は、今でも多くの企業が継続しています。 そのため、在宅ワークでの仕事を効率化するために、インターネットは必要不可欠になっています。 さらに、インターネットの利便性と経済性を向上させた設備・サービスの提供が、強い「付加価値」となっています。
キーワード【高速インターネット】
以前から「無料インターネット使い放題」のマンションは数多くありました。 しかし、コロナ禍で多くの人が在宅勤務になり、各部屋で一斉にインターネットを使い始めると、通信速度が著しく落ち、入居者からのクレームが続出しました。
そこで最近では、通信速度の落ちない「高速インターネット」を取り入れるマンションが増えてきています。 無料かつ常に快適にインターネットが利用できる環境は「付加価値」として入居時の競争力アップにもなるため、空室対策にもつながります。
キーワード【テレワークスペース】
テレワークを在宅で行う場合に入居者が頭を悩ませるのが、テレワークスペースの確保です。
昨今、テレワークスペースを確保している新築マンションが増えており、高い人気があります。 また、既存のマンションでも、空室対策としてリフォームによってテレワークスペースを設けているケースも目にするようになりました。
防犯性のアピール
セキュリティの高いマンションは、高い防犯性を求める入居者からの強い支持があります。 防犯対策にはさまざまな方法がありますが、次のキーワードはいずれも「付加価値」として人気の高い設備やサービスです。
キーワード
【オートロック】【防犯カメラ】【ホームセキュリティ】【警備保障によるセキュリティ】
いずれも、防犯性に優れたマンションとして、特に女性にアピールできる設備・サービスです。 IoTとも親和性が高く、併用することで防犯性と快適性を兼ね備えた、競争力の高いマンションになり、大きな「付加価値」になります。
その他の付加価値
これまで紹介してきたキーワード以外にも、「付加価値」にはさまざまなものがあります。
たとえば、バイク好きの入居者には、バイク置き場はなくてはならない「付加価値」です。 また、最近は「床の遮音性」をアピールしているマンションがあります。 在宅時間が増えても上下階の音が気にならなければストレスにならず、快適なマンションライフを送ることができます。
「コモンスペース=共用部分」の空間があるマンションも、ワンランクステージの高いマンションとして、入居者が家族や友人に対して自慢ができる心理的な「付加価値」になります。
まとめ
「付加価値」により、マンションの競争力を高めることができます。 反対に、入居競争がますます激しくなる時代において「付加価値」を持たないマンションは、入居競争から取り残される恐れもあります。
実際には、強い「付加価値」を持っているマンションは、まだそれほど多くはありません。 だからこそ、不動産オーナーが、いち早く自らのマンションに「付加価値」を取り入れ、強みとすることが、賃貸経営の成功につながるでしょう。
これから賃貸経営を検討されている方、付加価値の高いマンションの建設を検討されている方は、下記よりお気軽にお問い合わせください。
ファイナンシャルプランナー・終活アドバイザー・不動産コンサルタント
橋本 秋人
1961年東京都出身。早稲田大学商学部卒業後、住宅メーカーに入社。
30年以上、顧客の相続対策や資産運用として賃貸住宅建築などによる不動産活用を担当、その後独立。
現在は、FPオフィス ノーサイド代表としてライフプラン・住宅取得・不動産活用・相続・終活などを中心に相談、コンサルティング、セミナー、執筆などを行っている。また、自らも在職中より投資物件購入や土地購入新築など不動産投資を始め、早期退職を実現した元サラリーマン大家でもある。
⇒橋本 秋人さんの記事一覧はこちら
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