重要な経営資源である不動産は、どのように売買または賃貸、活用を行うかによって企業経営に大きな影響を及ぼします。 企業の不動産は、単にコストを左右するだけでなく、ブランド価値の向上や災害時の事業継続の可否、投資家への印象にも影響を与える経営資源です。 不動産は戦略的に扱うことによって企業価値も向上させることができることから、損得だけでなく長期的な戦略も踏まえた上で取り扱いを決定することが望ましいといえます。この記事では、「不動産のCRE戦略」について解説します。
- CRE戦略の目的とは、企業価値を最大化することである
- CRE戦略を導入すると、コスト削減などの効果を得ることができる
- CRE戦略には、目的に応じて様々な対応策が考えられる
CRE戦略とは
CREとは、「Corporate Real Estate」の頭文字を取った略称のことです。
Corporateは企業、Real Estateは不動産であり、CREを直訳すると「企業不動産」ということになります。
CREは企業不動産であるため、あらゆる不動産が対象となり得ます。
オフィスだけでなく、店舗や工場、物流倉庫、保養所、社宅、賃貸マンション、遊休地、借地物件などにおいて、企業が保有または賃借していればCREです。
CRE戦略とは、企業価値向上に資することを目的とした不動産の取り扱いの考え方を指します。 国土交通省では、「CRE戦略実践のためのガイドライン」(以下、ガイドライン)の中で、CRE戦略を以下のように定義しています。
【CRE戦略の定義】
CRE戦略とは、企業不動産について、「企業価値向上」の観点から、経営戦略的視点に立って見直しを行い、不動産投資の効率性を最大限向上させていこうという考え方である。
出典:国土交通省 「CRE戦略実践のためのガイドライン」
CRE戦略では、不動産を単なる物理的な土地や建物として捉えないということがベースとなる考え方です。 不動産は企業価値を最大限向上させるための経営資源として捉え、企業価値にとって最適な選択を行うことがCRE戦略ということになります。
CRE戦略の目的
企業がCRE戦略を導入するのは、企業価値向上に資することが目的です。
企業価値とは、株価のような定量的なものだけではなく、ブランド価値や顧客満足度、従業員の採用のしやすさなどの定性的なものも含まれます。
株価の向上を企業価値向上と考えれば、利益を増やすことが株価の向上に繋がります。
利益向上のために不動産ができることとしては、コストカットが挙げられます。
たとえば、かつて日本企業が行ってきた“人件費の安い海外に生産拠点を移転する”という行為は、代表的なコストカットを目的としたCRE戦略です。
また、従業員の採用のしやすさを企業価値向上と考えれば、従業員を面接する本社ビルが大きな役割を果たします。 たとえば、本社ビルは通勤しやすい便利な場所に建て、雰囲気の良いカフェテリアや、従業員が仮眠を取れる休憩室、綺麗なパウダールームなどを設置することもCRE戦略の一つです。
CRE戦略の効果
ガイドラインでは、CRE戦略の導入効果として以下のような項目を上げています。
【CRE戦略の導入効果】
- コスト削減
- キャッシュフローの増加
- 経営リスクの分散化・軽減・除去
- 顧客サービスの向上
- コーポレート・ブランドの確立
- 資金調達力アップ
- 経営の柔軟性・スピードの確保
出典:国土交通省 「CRE戦略実践のためのガイドライン」
CRE戦略は、1つを行えば上記の全ての効果を得られるわけではありません。
CRE戦略の効果は、相反するものも多く、1つの効果を得ることを選択することで別の効果を失うことも多いです。
たとえば、ある有名なコーヒーチェーンでは、オフィス街やターミナル駅近くなどの昼間人口の多い街に絞って出店する戦略が採用されています。 昼間人口の多い街に店舗があることで、そのコーヒーチェーンには都会的でおしゃれなイメージが生じており、「コーポレート・ブランドの確立」が実現できています。
しかしながら、昼間人口の多い街の店舗は、往々にして家賃が高いです。 昼間人口の多い街に出店する戦略を取ることで、「コスト削減」の効果は失っているといえます。
このようにCRE戦略は1つの戦略を採用することで全ての効果が得られるわけではなく、ある効果を得られてもほかの効果は失われることがよくあります。 不動産の取り扱いは単に損得勘定だけでは決められないことから、そこには企業の戦略性が必要となるのです。
目的別に見るCRE戦略の具体例
CRE戦略は得られる効果が一様ではないことから、目的を決めてから不動産の取り扱いを考えることが必要です。
この章では、目的別に見るCRE戦略の具体例を紹介します。
ブランド価値向上を目的としたCRE
ブランド価値向上を目的としたCREには、本社ビルの所在地をブランドイメージに合致した場所にすることが挙げられます。
たとえば、高級アパレルや洋菓子店、複数の店舗を展開している美容院などは、東京の銀座や青山などのおしゃれなイメージを持つ街に本社を設置することが多いです。
食品メーカーであれば、ブランドが確立された産地に近い場所に本社を置くこともよくあります。 また、米菓子メーカーであれば米どころの新潟、みかんジュースメーカーであればミカンの産地である愛媛などが挙げられます。
コスト削減効果を目的としたCRE
コスト削減効果を目的にしたCREは、製造業の生産拠点の配置に見られることが多いです。
たとえば、下請企業が元請企業の近くに生産拠点を置くことは、コスト削減効果を目的としたCRE戦略といえます。
下請企業の工場が元請企業のすぐ近くにあれば、すぐに納品することができ、輸送費を削減することができます。 また、元請企業の近くなら頻繁に元請企業との打ち合わせや試作品の提出ができるため、納品後のやり直しなどで生じるロスも防ぎやすいです。
BCPを目的としたCRE
BCPとは、「Business Continuity Plan」の略であり、災害時でも企業が事業を継続できるようにするための計画のことです。
近年は、新型コロナウイルスの影響によりロックダウンによって海外の工場が稼働できない事態が露見したことから、再びBCPに注目が集まっています。
BCP対応の具体例としては、製造業における生産拠点の分散があります。 また、サービス業であっても、本社ビルに非常用発電機や蓄電池、防災備蓄倉庫を備えることはBCP対策の事例です。
資金調達力向上を目的としたCRE
資金調達力向上を目的としたCREでは、ESG投資(環境・社会・ガバナンスの3つの観点から企業を評価して行う投資)を意識した不動産活用が挙げられます。
具体的には、省エネ対策に優れた本社ビルや工場を建てることで、環境に配慮した企業であることをアピールして、ESG投資を呼び込むケースが挙げられます。
キャッシュフローの改善を目的としたCRE
キャッシュフローの改善のためにも、CRE戦略は用いられます。
よくある例としては、節税を目的とした不動産の売買が多いです。
大きな利益が生じた期に合わせて帳簿価額(簿価)の高い不動産を売却し、売却損を発生させることで、利益を圧縮して法人税を節税するケースが挙げられます。
まとめ
以上、不動産のCRE戦略について解説してきました。
CRE戦略とは、企業価値向上に資することを目的とした不動産の取り扱いの考え方のことを指します。
CRE戦略の効果には、コスト削減やコーポレート・ブランドの確立などの効果がありますが、これらは相反することも多いです。 CRE戦略を実施する上では、単に財務的な損得だけでなく、戦略的に何を選択すべきかを考えることが必要となります。
企業で不動産の売買や賃貸、建築を検討されている方は、本記事を参考にしていただけると幸いです。
不動産鑑定士
竹内 英二
不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、住宅ローンアドバイザー、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、中小企業診断士。
土地活用と賃貸借の分野が得意。賃貸に関しては、貸主や借主からの相談を多く受けている。
⇒竹内 英二さんの記事一覧はこちら
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