- 新耐震基準以上の建物を貸すことが、最低限の地震対策となる
- 耐震性能の高い建物を建てれば、入居希望者にアピールできる
- 防災資器材を備蓄することも、オーナーの地震対策として有効
大地震での建物被害の実態を知る
国土交通省の報告によると、2024年1月1日に生じた能登半島地震では、旧耐震基準に基づいて建てられた木造建物の19.4%が倒壊・崩壊しました(旧耐震と新耐震については「第3章1 建物の耐震性能を知る」にて詳述)。
一方、新耐震基準以降の建物では、被害率は以下の通りです。
- 2000年以前
(接合部基準が明確化される前):
倒壊・崩壊率5.4% - 2000年以降
(接合部基準が明確化された後):
倒壊・崩壊率0.7%
出典:国土交通省 「令和6年能登半島地震における建築物構造被害の原因分析を行う委員会中間とりまとめ(令和6年11月)」
新耐震基準の建物でも被害は完全にゼロではありませんが、旧耐震基準と比較すると大幅に被害が減少していることがわかります。
オーナーには工作物責任が課せられている
地震によって入居者が被害を受けた場合、オーナーにも賠償責任が生じる可能性があります。 理由としては、民法における工作物責任が建物の所有者に課せられているからです。
▼工作物責任とは
工作物責任とは、建物や構造物に瑕疵(かし:不具合のこと)があった場合、その所有者が負う賠償責任を指します。
阪神・淡路大震災では、賃貸マンションの1階部分が倒壊し、1階に住んでいた賃借人が死亡する事故がありました。 この事故では、対象のマンションが建物の通常有すべき安全性を欠いていたことが認められ、建物所有者に損害賠償責任が課される判決が言い渡されています。
最初に行うことは現状把握
地震対策では、最初に現状把握を行うことが適切です。
この章では、把握すべきポイントについて解説します。
建物の耐震性能を知る
地震対策を行ううえで、まず自分の建物の耐震性能を正確に把握することが重要です。 建物の耐震性能を評価する際、最も重要な指標となるのが旧耐震基準と新耐震基準です。

▼旧耐震基準と新耐震基準の違い
- 旧耐震基準
1981年5月31日以前に建築確認申請※を通した建物が該当します。この基準では、震度5程度の地震への耐性が主に考慮されており、震度6以上の大地震に対して十分な強度がありません。 - 新耐震基準
1981年6月1日以降に建築確認申請を通した建物が該当します。 この基準では「数十年に一度生じる震度5程度の稀な地震に対しほとんど損傷しない」「数百年に一度生じる震度6強程度の極稀な地震に対して建物が倒壊しない」という耐震性が求められています。
※建築確認申請とは、着工前に行う図面審査のことです。
前章で紹介した阪神・淡路大震災で倒壊したマンションは、旧耐震基準の建物でした。 旧耐震基準の建物は「建物が通常有すべき安全性を欠いている」と判断される恐れがあるため、オーナーは最低限、新耐震基準以上の建物を賃貸することが必要です。
また、耐震指標の中には耐震等級と呼ばれる分類もあります。
耐震等級とは、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)に基づいて定められた、建物の耐震性を評価する指標です。 この等級は、1、2、3の3段階に分類されており、数字が大きいほど耐震性能が高いことを意味します。

耐震等級1であっても、新耐震基準は満たしています。
しかし、耐震等級2や3の建物は、新耐震基準以上の安全性を提供し、入居者に対してより高い安心感を与えるため、賃貸物件の魅力を向上させる大きな要素となります。
地域の災害リスクと避難所を知る
地域の災害リスクを理解し、避難所を把握することは地震対策において非常に重要です。
地震には、プレートの沈み込みが原因で生じる「海溝型地震」と、活断層が原因で生じる「直下型地震」があり、海溝型地震は日本各地で発生する可能性がある一方、直下型地震は特定の地域に限られます。 直下型地震が生じる可能性のある地域は、ハザードマップで確認できるため、物件の近くに活断層がないかをチェックすることが望ましいです。
また、地震による津波や液状化現象といった2次被害も考慮する必要があります。これらもハザードマップで確認できるので、物件が津波や液状化のリスクにさらされていないか、事前にチェックしておくと良いといえます。
さらに、物件の近くの避難所の場所を把握しておくことも役立ちます。 特にオーナーが自宅近くに物件を所有している場合、災害時に入居者を避難所へスムーズに誘導させることができるよう、避難所の場所を事前に確認しておくと安心です。
オーナーが行うべき地震対策

この章では、オーナーが行うべき地震対策について解説します。
これから新築する場合は耐震性能の高い建物を建てる
これから新築する場合は、耐震性能の高い建物を建てることが地震対策として非常に効果的です。 新築物件は少なくとも新耐震基準は満たしていますので、普通に建てても最低限の地震対策はできています。 ただし、もう一歩踏み込んだ対策を行えば、借り主に対して高い耐震性能をアピールすることが可能です。
たとえば、耐震性能をアピールしやすい構造としては、免震構造があります。
免震構造とは、建物と基礎の間に免震装置を設置して地震のエネルギーが建物に直接伝わらないようにする技術です。 この構造は、地震の影響を軽減し、建物の安全性を大幅に高めます。 免震構造は比較的広く認知されていることから、耐震性能の高さを入居希望者に分かりやすく訴求できる効果があります。
旧耐震物件は耐震補強を行う
旧耐震基準で建てられた物件であれば、耐震補強を行うことが重要な対策です。
旧耐震基準で建てられた物件は、現行の基準に比べて耐震性能が劣る可能性があります。 そのため、まずは耐震診断を実施し、建物の耐震性が新耐震基準を満たしているかどうかを調べます。
耐震診断では、建物の構造や設計を詳細に調査し、必要な耐震補強が行われているかを確認します。 もし診断結果で新耐震基準を満たしていない場合、耐震補強工事を実施して耐震性を向上させる必要があります。
なお、耐震診断や耐震補強には、自治体の補助金が利用できることが多いため、補助金も上手く活用していただければと思います。
地震保険を付保する
地震保険に加入することも、基本的な地震対策となります。 地震保険とは、地震によって建物や家財に被害が生じた際に、その損害を補償するための保険です。
一般的に、ローンを組む際は火災保険の加入が必須となるため、火災保険に加入しているケースがほとんどです。 しかし、地震保険は任意であるため、加入していない物件も少なくありません。 まずは、自分の物件が地震保険に入っているかを確認し、未加入であれば加入することが望ましいです。
防災資器材を備蓄する
地震対策の一環として、防災資器材の備蓄は重要です。 災害時に迅速に対応できるよう、必要な資器材を事前に準備しておくことも、地震対策になります。
防災資器材とは、簡易トイレや発電機、防災キャビネット、給水タンク、軍手、タオル、バケツ、ヘルメットなどが挙げられます。
これらの資器材は、災害時に入居者が安全に過ごすために欠かせないものです。 もし建物に備蓄倉庫がない場合は、新たに物置きを設置し、備蓄を保管しておくことが対策となります。
建物のレジリエンスを高める
レジリエンスとは、災害やトラブルが発生した際にどれだけ回復力や耐久力を持っているかという意味です。 建物のレジリエンスを高めることも、地震対策において重要な取り組みとなります。
災害後も入居者が安心して住み続けられるように、レジリエンスを高めた物件が求められます。 具体的な対策としては、以下のような要素を取り入れることが挙げられます。
- 免震構造:地震の揺れを軽減し、建物の損傷を防ぐ
- 非常用電源:停電時に電力を供給できる装置
- 防災備蓄倉庫:食料や水、医療品などの備蓄を行い、入居者の生活を支援
- 井戸:水道が使えない場合でも飲料水を確保できる
これらを備えた賃貸物件は、災害時に強い耐性を示し、入居者の安全を守ります。
以下に、参考事例をご紹介いたします。
参考事例:スターツCAM株式会社 「アネシス・リアン」
まとめ
以上、賃貸オーナーの地震対策について解説してきました。
地震対策としては、最初に「建物の耐震性能を知る」や「地域の災害リスクと避難所を知る」といった現状把握を行うことが第一歩です。 オーナーが行うべき地震対策としては、「これから新築する場合は耐震性能の高い建物を建てる」や「旧耐震物件は耐震補強を行う」などがありました。
地震対策をしっかりと行うことで、入居者の安全を守り、物件の価値を維持することができます。 賃貸オーナーとして地震対策を進める際に、本記事を参考にしていただけると幸いです。

不動産鑑定士
竹内 英二
不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、住宅ローンアドバイザー、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、中小企業診断士。
土地活用と賃貸借の分野が得意。賃貸に関しては、貸主や借主からの相談を多く受けている。
⇒竹内 英二さんの記事一覧はこちら
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