- 相続の際は原則として所得税はかからない
- 収入性のある財産を相続、遺産を売却した場合は所得税がかかる
- 各種控除の活用は所得税対策になる
相続税の申告は必要?不要?
家族などが亡くなってあなたが相続人となった場合、申告が必要になるケースがあることをご存じでしょうか? これは、亡くなった方(被相続人)の財産を相続すると、相続税や所得税といった税金が発生するためです。
ただし、必ず申告をしなければならないか、というとそうではありません。
まずは、相続税に関して申告が不要なケースと必要なケースを解説します。
相続税の申告が不要なケースと必要なケース
相続財産が基礎控除額の範囲内なら不要
金融資産や土地、車などの遺産を相続すると、それぞれについて基本的には相続税が発生します。 しかし例外もあり、相続財産が基礎控除額の範囲内であれば相続税は発生しません。
基礎控除額は次のように計算します。
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
※2021年7月現在
相続する財産がこの式の合計額(基礎控除額)以内であれば、課税はされません。
たとえば相続人が配偶者と子ども2人の場合、相続税の基礎控除額は「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」となります。
基礎控除額は法定相続人の数によって異なり、相続財産が基礎控除額の範囲内であれば相続税はかからず、その場合は申告の必要もありません。
基礎控除額を超えた分の相続財産については必要
相続財産が基礎控除額の範囲を超えた分については、申告をして納税する必要があります。
相続税は、相続人1人あたりの課税価格をもとに総額を計算し、一人ひとりの相続税額に落としこんでから、税額控除額を差し引いて算出します。
相続人が配偶者の場合は、例外として配偶者控除の適用が可能です。この仕組みが適用されれば、「1億6,000万円までの遺産額」もしくは「配偶者の法定相続分相当額」のどちらか多いほうの金額までは相続税がかかりません。
◆「生前贈与」に関わる相続税もチェック
相続税対策の一つに、「生前贈与」があります。被相続人が存命のうちに財産を分散させる方法ですが、被相続者の死亡から過去3年以内に相続人へ贈与された分は、さかのぼって相続財産に加算されるので注意が必要です。ただしその場合は、贈与税額については控除があります。
所得税は確定申告が原則不要、しかし例外も……
所得税は、個人の所得(「収入」から「必要経費」を引いて残った額)に対してかかる税金です。「財産」を相続した場合には相続税が発生し、所得税は原則発生しません。 所得税が発生しないなら、もちろん所得税の確定申告も不要です。
ただしこれには例外があり、収入を生む遺産を相続した場合や、相続した遺産を売却した場合などは所得税の確定申告が必要になります。 代表的な4つのケースを見ていきましょう。
賃貸物件など収入を生む遺産を相続した場合
賃貸物件や月極駐車場といった収入を生む遺産を相続した場合、その収入に対しては所得税の確定申告をしなければなりません。この際、「自分の収入の確定申告」と「被相続人に関わる収入の確定申告」があるので注意が必要です。
自分の収入の確定申告
相続後の賃貸料収入に対する所得税は、相続人が不動産所得の確定申告をします。 もし相続人が被相続人の賃貸事業などを引き継ぐ場合は、さまざまな手続きがあるので気をつけましょう。 たとえば、1月から8月に相続が発生し、被相続人が行っていた確定申告を継承する場合は、相続の開始日から4ヶ月以内に書類を提出する必要があります。
被相続人に関わる収入の確定申告
被相続人に代わって確定申告を行うことを「準確定申告」といい、準確定申告は亡くなった日から4ヶ月以内に行う必要があります。 たとえば4月30日に賃貸マンションを所有していた母が亡くなり、それを息子が相続する場合、1月1日から4月30日分の不動産所得は亡くなった母に代わり、息子が準確定申告をする流れとなるので覚えておきましょう。
相続した不動産などを売却した場合
相続した不動産や株式などの金融資産を売却して収入を得た場合、譲渡所得の確定申告が必要です。不動産を譲渡した際、課税される譲渡所得の金額は次のように計算します。
譲渡所得=
収入金額-(取得費+譲渡費用)
-特別控除額
相続した土地や不動産を譲渡するケースでは、条件を満たせば「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」という制度が適用され、上記の式の取得費に相続税額のうちの一定金額を加算できます。
実際に被相続人が住んでいた家や土地を売却する際は、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」が適用となるケースがあるので覚えておきましょう。譲渡所得の金額から、最大3,000万円まで控除可能となる特例です。また、被相続人とともに相続人も住んでいた家や土地を売却する場合は、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」が認められるケースがあります。
ただし、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」と「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」は同時には適用されません。
相続した財産を寄付した場合
相続財産を寄付した場合にも、確定申告が必要です。 ただし、国や自治体、ユニセフ、赤十字などの特定公益増進法人といった「決められた寄付先」へ寄付するなど、要件を満たしている場合は確定申告することで寄付金控除が適用されるため、節税できます。
死亡保険金を受け取った場合
相続人が被相続人の保険料を負担しており、死亡保険金を受け取った場合は、相続人の一時所得として課税されるので確定申告が必要です。
所得税の確定申告の方法
続いては、所得税の確定申告方法をご紹介します。
確定申告の方法は、大きく分けて3つ。それぞれの方法を確認しておきましょう。
税務署の相談窓口で確定申告する
確定申告の時期に、申告する内容に応じた必要書類を準備して税務署や相談会場へ行くと、対面でアドバイスをもらいながら確定申告を行うことができます。書類の作成方法がわからない場合、税務署の職員と一緒に書類を記入できるのがメリットです。手書きのほか、会場に用意されたパソコンで書類を作成することも可能です。
ただし、申告が複雑なケースや金額が大きなケースは対応してもらえない場合もあります。心配な場合は、事前に電話で相談してみましょう。
国税庁のホームページから電子申告する
国税庁のホームページにある「確定申告書等作成コーナー」から各種書類を作成し、提出する方法もあります。自宅にインターネット環境が整っている方は、わざわざ会場へ行く必要がないので便利です。国税庁ホームページ内の確定申告書等作成コーナーで作成した書類は、翌年の確定申告書類に内容を反映させることができます。毎年確定申告を行う方にとってはメリットと言えるでしょう。
書類の提出方法には、確定申告書等作成コーナーで作成した書類を自宅やコンビニなどでプリントアウトして郵送する方法と、国税電子申告・納税システム「e-Tax(イータックス)」で送信する方法があります。e-Taxで送信する場合は、マイナンバーカード方式とID・パスワード方式があるので、都合がよい方を選んでください。マイナンバーカード方式では、マイナンバーカードとICカードリーダライタ、またはマイナンバーカード対応のスマートフォンが必要です。
税理士に依頼する
確定申告は、税理士に書類作成や提出を依頼することもできます。帳簿が必要な青色申告、手続きや書類が煩雑なケース、節税について効果的な方法を知りたいといった場合は、とくに頼りになるでしょう。一部分だけ相談に乗ってもらうことも、難しい書類の作成や提出をすべて依頼することも可能です。
ただし、税理士に依頼するには費用がかかります。依頼先や依頼内容にもよりますが、5万円から10万円のまとまった費用が必要となるケースが多いようです。
相続の確定申告における注意点
最後に、相続税の申告について、押さえておきたい注意点をご紹介します。
相続税は10ヶ月以内に申告を
遺産を相続して相続税が発生する場合、「相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」に申告と納税をする決まりがあります。期限までに申告をしなかった、少ない額しか申告・納税していなかった、といった場合は加算税や延滞税がかかることもあるので十分に気をつけましょう。
遺産を相続したら、まずは相続税申告が必要かどうかを早めに確認することをおすすめします。必要があれば漏れなく申告しましょう。納税は税務署のほか、郵便局や金融機関でも可能です。
不動産を相続したら評価額の把握を
相続税の計算には、相続税評価額が必要です。土地の場合は路線価方式または倍率方式をもとに評価され、市場での取引価格よりも低いと言われています。また、相続した不動産の売却を検討している場合には、適正な市場取引価格を把握しておくことも大切です。場合によっては不動産を買いたたかれてしまうケースもあるので、評価額は早めに把握しておきましょう。
相続した不動産の売却価格が相続税評価額を下回る場合には、売却価格を相続税評価額とすることが可能です。路線価方式や倍率方式をもとに算出された金額よりも時価評価が低い場合は、こちらを相続税評価額とすると節税対策になります。
相続や申告の仕組みを理解して有効な所得税対策を
相続では原則として所得税はかかりませんが、収益性のある遺産を相続した場合や相続した遺産を売却した場合などには申告が必要になります。所得税対策となる控除などもあるので、漏れがないように把握しておきましょう。
相続税や所得税などの税務対策に関して詳しく知りたい方は、下記よりお問い合わせください。
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