- 日銀のマイナス金利解除により、住宅ローン選びがより重要になってくる
- 物価上昇に伴い、インフレに連動して不動産価格がさらに上昇する可能性がある
- 物価が上昇しても住宅ローンの借入残高は増えないため、住宅ローンを借りて家を買うことは合理的である
マイナス金利解除と住宅ローンの関係
日本銀行がマイナス金利を解除すると、住宅ローンでは変動金利が上昇すると言われています。 日本銀行は、民間の銀行とお金の貸し借りを行う“銀行のための銀行”という役割があり、経済の世界では、最後の貸し手(Lender of Last Resort)と称されることもあります。
マイナス金利がマイナスでなくなると、ゼロ金利や低金利になり、この金利は巡り巡って住宅ローン金利に連動するため、マイナス金利を解除すると住宅ローン金利が上がることにつながります。
そもそもマイナス金利とは?
マイナス金利とは、日本銀行と民間銀行の間でのお金のやりとりに関わる金利の一部がマイナスであることを意味します。 本政策は、2016年1月に日本銀行の金利政策の1つとして導入されました。
銀行が日本銀行にお金を預けると、預けている側にも関わらず金利を支払うことになります。 金利支払いは利益を減らしますので、銀行としては利益を確保するために住宅ローン金利を引下げることで、住宅ローンの販売を推進してきました。
マイナス金利解除の背景
日本銀行の本来の役目は、金利の調整ではなく物価の安定です。 日本の物価を示す経済指数である消費者物価指数は、エネルギー価格や食料品の値上がりのため2~3%上昇しました。
日本における物価が上昇に転じたため、日本銀行の金融政策に変化が起こると見られていました。 マイナス金利解除にあたり、特に重要だったと見られる指標が「賃金」です。 大手企業の賃金上昇が確認されたことで、日本銀行としては判断の迷いなく、マイナス金利を解除することにつながったと考えられます。
マイナス金利が解除されて住宅ローン金利はどうなった?
マイナス金利が解除されて2ヶ月ほど経過しましたが、住宅ローン金利はどうなったでしょう。
結論は、さらに金利を下げた銀行がある一方で、金利を引上げた銀行もありました。 銀行ごとの対応が異なる理由は、銀行にとっての住宅ローンの位置づけや市場占有率によるものと考えられます。
住宅ローンという金融商品は、金利を比較するだけで商品の優劣がおおよそ判断できます。
金利を下げれば比較的有利な条件となり、金利を上げれば不利な条件となります。 住宅ローン市場において貸出残高の多い銀行は、金利を引き上げると新規の借入は減少することが想定されますが、既存の借入は減少しません。 そのため金利引上げを行いやすくなります。
一方で、これから住宅ローンのシェアを伸ばしたい銀行は、金利が上昇する局面で自行の金利を引下げることができれば、貸出条件において優位に立ち、貸出を一気に増やせる可能性があります。 このような考えも一部含まれているでしょうから、金利の動向を見るには、検討する銀行が住宅ローン市場の中でどのようなシェアもっているかを調べてみると、今後の打ち手が見えてくるかもしれません。
今後の住宅ローン金利の見通し
金利は長期金利から先に上がることが多いといわれているため、フラット35や10年固定金利タイプの住宅ローン金利は、金利が上昇する可能性が高そうです。 実際に本稿を執筆している2024年5月時点では、中長期の固定金利は引上げ傾向にあると言えます。
中長期の住宅ローン金利が上がると、変動金利の優位性が際立ちます。 変動金利が上昇する場合は、中長期の固定金利が上昇した後に遅れて金利が上昇すると見込まれます。
また、円安による日本銀行の政策金利の引上げを求める声が多いでしょうから、円安を是正するために日本銀行が金利を引上げる可能性があります。 その場合は、どの銀行も連動して変動金利を引上げる可能性が高そうです。
変動金利と固定金利どちらを選ぶべき?
具体的な金利動向は、借入検討のタイミングで確認する必要があります。
例えば住宅ローン貸出残高トップクラスの銀行である住信SBIネット銀行では、2024年4月に比べて、2024年5月は変動金利が0.1%上昇、10年固定金利が0.13%上昇、35年固定金利が0.16%上昇しました。 短期よりも長期の固定金利の方が、金利上げ幅が大きいことがわかります。
優遇金利適用前の基準金利では、変動金利が2.775%→2.875%、10年固定金利が3.13%→3.26%、35年固定金利が5.05%→5.21%となっています。
最優遇金利(金融機関における優遇金利の中で最も低い金利)を2.5%と仮定すると、変動金利は2.875%-2.5%=0.375%、10年固定金利は3.26%-2.5%=0.76%、35年固定金利は5.21%-2.5%=2.71%となります。
▼借入期間35年の場合の毎月の返済額
借入額 (万円) |
【変動金利】 金利0.375% |
【10年固定金利】 金利0.76% |
【35年固定金利】 金利2.71% |
---|---|---|---|
3,000 | 76,229円 | 81,371円 | 110,654円 |
4,000 | 101,639円 | 108,495円 | 147,539円 |
5,000 | 127,049円 | 135,619円 | 184,424円 |
6,000 | 152,459円 | 162,743円 | 221,309円 |
7,000 | 177,869円 | 189,867円 | 258,194円 |
8,000 | 203,279円 | 216,991円 | 295,079円 |
9,000 | 228,689円 | 244,115円 | 331,964円 |
10,000 | 254,099円 | 271,239円 | 368,849円 |
右にスクロールできます→
あなたの借りたい住宅ローンの金額を考えてみてください。
金利毎の返済額を見て、あなたならどの金利を選びますか?
現実的には、変動金利の0.375%、10年固定金利の0.76%のいずれかを選択するのではないでしょうか。
35年固定ローンは金利が高いため、毎月の住宅ローン返済額が多すぎて、支払いが難しい方がほとんどだと思います。 できることなら金利の低い変動金利で借りたい。でも、金利上昇が怖い。 そんな方は、10年固定金利の住宅ローンを借りておくと良いと思います。
現在の10年固定金利の金利であれば、変動金利の方が後々に高くなり、10年固定金利の利率を超える可能性はありそうです。 住宅ローンの金利負担は当初10年で、全体の半分位を支払うという試算もありますので、そう考えると、変動金利よりも10年固定金利の方が、安全性が高いかもしれません。
金利上昇局面で家を買う際の注意点
金利が上昇している場合、金利が上がることで毎月の返済額が増えることを心配する方も多いのではないでしょうか。
一方で金利上昇局面では、物価が上昇している可能性が高いため、インフレに強い資産の1つである不動産(マイホーム)を買えば、円の価値が下がったり物価が上昇したりしても、不動産価格も一緒に上昇する可能性があります。 支払額が増えるという問題を除けば、金利上昇局面だから家を買うという理屈も一理あります。
ところで、住宅金融支援機構の調査では、新規住宅ローン借入のうち、変動金利タイプを選択した人が72.3%、一定期間金利固定タイプを選択した人が18.3%、全期間固定金利タイプを選択した人が9.3%(2023年4月調査)でした。
全期間固定金利タイプを選ばなかった9割の方にとって、金利上昇は、将来の生活の安定を損ねる恐れがある危険因子です。 今は住宅ローンを払えるけど、将来払えるか不安…という方は、全期間固定金利で借りるべきです。
しかし、「支払いが多いため、変動金利や一定期間固定金利タイプを選ぶしかない」という場合の対策はあるのでしょうか。 下記2つ考えてみました。
家計を見直して住宅ローン返済額の増加に備える
今の生活様式を見直すことで支出を減らし、支払い余力を増やすという方法があります。
食費、日用品費、被服費、水道料金、電気料金、ガス料金、固定電話、携帯電話、家具、交際費、医療費、交通費、お小遣い、習い事、保険料、その他、使途不明金(把握できない支出)を書き出してみましょう。 住居費は書き出しから外します。
支出を書き出したら、支出上位5項目を選び、上位5項目の支出を減らす方法が無いか考えてみましょう。
使途不明金が上位5項目に入った場合は、レシートや行動履歴から何に使ったか思い出す必要があります。 サブスク支出(毎月固定支出のあるサブスクリプション型の支払い)である食料品の定期便、ウオーターサーバー、化粧品、固定電話、携帯電話、習い事、保険については、単価と頻度(回数)、そもそもの必要性を再度検討してみましょう。 サブスク以外の支出についても、単価、頻度(回数)を見直せないか検討することをおすすめします。
サブスク支出は一度見直せば、継続的に効果が出るにもかかわらず、継続して努力する必要がありません。 サブスク以外の都度購入の場合は、習慣化するまで少なくとも数か月継続して努力が必要ですが、家を買うために頑張りましょう。
個人向け国債の変動金利タイプを購入する
家計見直しのような努力は不要なかわりに、手元資金が必要な方法があります。
それは、お金の預け場所を変えることです。
銀行の普通預金や定期預金では住宅ローン金利に勝てませんが、個人向け国債は住宅ローンより金利の高い商品もあります。
例えば、10年満期の個人向け国債「変動10」(2024年5月15日時点)は変動金利で0.57%の利率、5年満期の「固定5」は0.45%の利率です。 個人向け国債の利子には約20%の所得税・住民税が課税されますので、手取りは0.57%×0.8=0.456%となります。
それでも、多くの銀行の変動金利型住宅ローンの金利よりも高いため、住宅ローンの金利上昇に備えて、預貯金を個人向け国債の購入にあててもいいかもしれません。
既に住宅ローンを借りている人はどうすべき?
既に家を所有していて住宅ローンを返済している人は、どうすべきでしょうか。
フラット35などの全期間固定金利タイプの住宅ローンを借りている人は、何も悩む必要はありません。 「全期間固定金利を選択するのは間違いだ」と感じていた人もいるかもしれませんが、金利が上昇する時代になりました。 結果論ですが、固定金利を選んでおいて正解だったと言われる時代が到来するかもしれません。
困るのは、変動金利や一定期間固定金利タイプの住宅ローンを借りている人です。
直近の変動金利の利率動向では、借り換えするには至りません。
住宅ローン借換えにおいて、メリットが出るかどうかの判定として、金利差1%、残高1,000万円、残年数10年といった条件があります。 実際は金利、残高、残年数の組み合わせは無数にあり、1%に満たない金利差でも借換えメリットがでることはありますので、優遇金利の大きな銀行を探して借り換え試算してみることをおすすめします。
また、10年固定金利に借換える案を検討してみても良いかもしれません。 本稿執筆時点では、金利が上昇する見通しが主流と言えそうです。 現在の10年固定金利の水準は、ひと昔前の変動金利と同等のレベルなので、借換え費用はかかりますが、これから先10年の支払額を確定させることは意味があります。
なお、預貯金が順調に蓄積されている場合は、前述の通り“個人向け国債”を購入することで、金利上昇に伴う返済額増加を変動金利型国債の利子で補うことができるでしょう。
金利上昇局面で家を買うということ
金利のある世界で家を買うことを、躊躇する人も増えてきています。 実際に、直近で筆者が住宅購入の相談を受けている人の中には、金利上昇に伴う返済額の上昇を懸念して、住宅価格を下げようと考えている人もいます。
しかし、金利上昇局面では、物価の上昇が同時並行で起こるはずです。 物価が上昇しても借入は増えないため、相対的な価値は年数が経過するほど目減りします。 そのため早めに家を買うほうが、長期的にお得であると考えられます。
上述したように、不動産価格は物価と共に上昇する可能性が高くなります。 一方で、住宅ローンは返済額こそ増加する可能性はありますが、借入残高が増加することはありません。
金利や物価の上昇は借金を目減りさせてくれるということを念頭に置くと、家を買うことの意義や、早めに買うことに意味があることがわかります。 金利上昇に伴い住宅ローン返済額が増加するなど、生活が不安定に感じられるからこそ、家を買うことが重要になるのかもしれません。
まとめ
金利のある世界では、給与水準も徐々に上がることが見込まれます。 一方で、金融資産は物価上昇に伴い目減りします。 本稿では、個人向け国債の購入を例として取り上げましたが、2022年、2023年の物価上昇は2~3%となります。 金利が上昇してきたとはいえ、個人向け国債の利子だけでは、金融資産の目減りを相殺することはできません。
そのため、安定的に成長する資産とするべく、お金の預け先を銀行預金から、市場連動型の投資信託やETF(上場投資信託)などへシフトチェンジすることを検討すべき段階かもしれません。
「一年後には、土地の価格や建築価格がさらに上がる。」そんな時代になりそうです。 ゆえに、家を買うと決めたら、なるべく早めに物件購入まで進めることをおすすめします。
これから住宅購入を検討されている方は、下記よりお気軽にご相談ください。
ファイナンシャルプランナー
高橋 成壽
1978年生まれ。小学生の頃からお金や投資に興味をもちFPを志す。自分と家族と友人の大切な資産を守るため独立。寿FPコンサルティングでは金融教育に注力。ライフデザインセンターではFPマッチングサービスとして、「ライフプランの窓口」、「住もうよ!マイホーム」等提供、資産運用サービスとして「アセマネさん」を運営。
証券アナリスト資格を保有するIFAとして活動し、資産運用の依頼が絶えない。慶大卒、不動産三田会、FP三田会所属。
⇒高橋 成壽さんの記事一覧はこちら
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