- 建て替えの適切なタイミングは、入居率が著しく低下したときが目安となる
- 建て替えには収支改善などのメリットがあり、長期的に安定した経営につながる
- 建て替えを始める前に、完成後のプランをしっかり検証する
賃貸物件の建て替え判断ポイント
賃貸物件の建て替えは、築年数だけでなく 入居率の低下や建物の老朽化、市場ニーズの変化などを総合的に判断する必要があります。
まず初めに、建て替えを検討すべき具体的なポイントを解説します。
入居率が著しく下がっている
建て替えの最も重要な判断基準は、入居率の低下です。
築年数が古くても満室状態で安定した収益を確保できている場合、無理に建て替える必要はありません。 しかし、入居率が低下すると収益が悪化し、建て替えを検討する必要がでてきます。
また、賃貸物件の建て替えには立ち退き交渉、解体・新築工事など、収益が発生しない期間が生じるため、できるだけスムーズに進めることが重要です。 そのため、立ち退き交渉の必要が少ない状態が望ましく、入居率が5割程度に低下した段階で建て替えを検討するのが適切な目安といえます。
大規模修繕が困難になった
建物の老朽化が進み、大規模修繕では対応できなくなった場合も、建て替えのタイミングです。
例えば、以下のようなケースでは修繕では解決できないため、建て替えが必要になります。
- 雨漏りが修繕しても再発する
- 給排水設備の老朽化が激しく、改善が難しい
- 構造部分(躯体)の損傷が大きい
このような状況では、修繕費用が高額になったり、一時的な対応では解決できなかったりするため、建て替えを視野に入れるべきです。
市場ニーズに合わない物件になっている
築年数が古い物件の中には、リフォームでは市場ニーズに適応できず、抜本的な改善が必要な物件もあります。 抜本的な改善が必要とされる建物としては、以下のような物件が挙げられます。
- 耐震性が低い(1981年5月31日以前の「旧耐震基準」物件)
旧耐震基準の物件は耐震性が低いため、入居者に敬遠されやすい - バス(風呂)が付いていない
近年はほぼ見られないが、競争力が大幅に低下する - 5階建て以上でエレベーターがない
高齢化が進む中で、エレベーターなしの物件は敬遠されやすい - 3点ユニット(バス・トイレ・洗面所が一体型)になっている
分離型の水回りを好む入居者が多く、敬遠される傾向が強い - 2DKなどのリビングのない間取りとなっている
現在は1LDKや2LDKが主流であり、リビングのない間取りは不人気
このように、設備や間取りが現在の市場ニーズに合致しない場合、リフォームでは対応しきれず、建て替えの方が合理的な選択肢となることがあります。
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建て替えのメリット
賃貸物件の建て替えには、収益改善や節税対策、資産価値の向上など、多くのメリットがあります。 この章では、建て替えのメリットについて解説します。
収支が改善する
賃貸物件を建て替える最大のメリットは、収支が改善することです。
新築物件は家賃が高く設定できるうえ、空室リスクも低く、修繕費もほとんどかかりません。 そのため、安定した収益を確保しやすいのが特徴です。
一方、耐用年数が満了している古い物件では、減価償却費の計上が終了していることが多く、節税効果が得られないうえに税負担が増えるケースがよくあります。 減価償却費とは、建物の取得費用を耐用年数に応じて分割し計上することで、会計上の利益を調整し、税負担を抑える仕組みです。
新築物件に建て替えることで、再び減価償却費を計上できるため、税負担を軽減しつつ収支を改善できる可能性が高まります。
相続税対策効果が高まる
賃貸物件を新築に建て替えることで、相続税対策の効果が向上するというメリットがあります。
賃貸物件の建て替えの際には、多くの場合新たに借入金を組むことになります。 この借入金は、被相続人(故人)の資産から差し引かれる「マイナスの財産」として扱われるため、相続税の課税対象額を減らすことが可能です。
さらに、賃貸物件の相続税評価額は、満室時が最も低くなる仕組みになっています。 建て替えによって入居率が改善し、満室状態を維持できれば、より相続税の負担を軽減できる可能性があります。
建て替えのデメリット
この章では、賃貸物件を建て替える際のデメリットについて解説します。
時間と費用がかかる
建て替えには多くの時間と費用が必要になる点がデメリットです。
手順としては、立ち退き交渉と解体工事、新築工事が発生し、それぞれに時間と費用を要します。 とくに立ち退き交渉はスムーズに進まないケースもあり、住民の合意が得られないと長期化する可能性があります。 その結果、立ち退き料の増加やスケジュールの遅れが生じるリスクがあります。
一定の不確実性が存在する
建て替えは将来の収益向上を見込んで行う投資であるため、不確実性が伴う点もデメリットの一つです。 たとえば、人口減少が進む地域や、賃貸物件の供給過剰な地域では、建て替え後に十分な入居者を確保できるか不透明な状況になることがあります。 また、立ち退き交渉がこじれると、住民とのトラブルが裁判に発展することもあり、計画が長期化する恐れがあります。
このように、想定通りに進まない可能性がゼロではないため、多額の投資を決断しにくい側面があるのも事実です。
賃貸物件の建て替えの流れ

この章では、賃貸物件の建て替えを進める際の具体的な流れについて解説します。
建て替えプランを検証する
建て替えを行うには、まず建て替えプランの検証から始めます。
投資採算性をシミュレーションする
立ち退き交渉や解体工事を進める前に、建て替え後の投資採算性を十分にシミュレーションし、投資としてのメリットがあるかを慎重に見極めます。 収益性が見込めない場合には、建て替え計画を見送ることも判断の一つです。
賃貸面積の変化を確認する
物件の立地や地域の条例改正などの影響で、建て替え前よりも賃貸面積が減少するケースもあります。 そのため、施工会社に設計プランを作成してもらい、十分なメリットが得られるかを確認したうえで判断することが不可欠です。
しばらく自然退去を待つ
建て替えが決定したら、立ち退き交渉の負担を減らすために、入居者の自然退去を待つことが重要です。 退去が発生したら新たな入居者は募集せず、そのまま空室として管理します。 これにより、立ち退き交渉が必要な入居者を減らせます。 残戸数を早く減らしたい場合には、家賃の増額交渉を打診し、自然退去を促すことも方法の一つです。
立ち退き交渉を開始する
立ち退き交渉は、交渉相手が少ないほどスムーズに進み、貸し主が支払う立ち退き料の負担も軽減できます。 そのため、可能な限り自然退去を待ち、入居者数が十分に減ってから着手するのが理想です。
▼立ち退き交渉のポイント
- 誠意をもって対応する
立ち退きは入居者にとっても大きな問題となるため、丁寧な説明と誠意ある対応が求められます。 - 適切な立ち退き料を提示する
相場を考慮し、円満に合意を得られる金額を提示することが重要です。 - スムーズな転居支援を行う
立ち退きをスムーズに進めるため、引越し費用の負担や代替物件の紹介などを検討するのも有効です。
こうした準備を整えたうえで立ち退き交渉を進めることで、トラブルを最小限に抑えつつ、建て替えを円滑に進めることができます。
解体および新築工事を行う
立ち退きが完了したら、いよいよ解体工事を開始します。 解体工事が終了次第、新築工事へと進みます。
▼解体および新築工事のポイント
- 工事契約の準備を早めに行う
立ち退き交渉期間中から、解体工事と新築工事の請負会社を決定し、契約の準備を進めておくことが重要です。これにより、解体作業から新築工事へのスムーズな移行が可能となります。 - 工期を管理する
解体と新築工事の計画をしっかりと立て、進捗状況を確認しながら適切に管理することが大切です。工期の遅延を避けるため、事前に十分なスケジュール調整を行いましょう。 - 予算の見積もりを正確に行う
工事の過程で予算がオーバーしないように、費用の見積もりをしっかりと行い、必要に応じて調整を加えることが大切です。
解体と新築工事を効率的に進めることで、計画通りに新しい賃貸物件を完成させることができます。
まとめ
以上、賃貸物件の建て替えについて解説しました。
賃貸物件の建て替えを検討するタイミングとしては、「入居率が著しく下がっている」、「大規模修繕の対応が困難になった」、「市場ニーズに合わない物件になっている」といったタイミングで考えることが適切です。 建て替えのメリットには、収支の改善や税制上の優遇措置などが挙げられる一方で、時間や費用がかかるといったデメリットも存在します。
賃貸物件の建て替えを進める前に、まずは施工会社と建て替えプランを検証し、投資採算性が十分に見込めることを確認したうえで着手することが適切です。
賃貸物件の建て替えを検討されている方は、下記よりお気軽にお問い合わせください。

不動産鑑定士
竹内 英二
不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、住宅ローンアドバイザー、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、中小企業診断士。
土地活用と賃貸借の分野が得意。賃貸に関しては、貸主や借主からの相談を多く受けている。
⇒竹内 英二さんの記事一覧はこちら
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