- 入居率が1年以上50%以下の状態が続く場合は、建て替えを検討すべきタイミング
- 維持コストが収益に見合わなくなったときが、建て替えを検討するタイミング
- 近年、耐震性を重視する入居者が増え、旧耐震基準のアパートは敬遠されがち
アパートの建て替えを検討すべきタイミングは?
入居率の低下、家賃の下落、修繕費の増加などにより老朽化したアパートの経営効率が悪化した場合、大規模なリフォームやリノベーション以外に、新しいアパートへの建て替えも選択肢となります。
アパートが次のような状況に当てはまる場合、建て替えを検討するタイミングと考えられます。
入居率50%割れが1年以上続いている
アパート経営では入居者の入れ替えは避けられませんが、通常は退室があっても、早ければ翌月、遅くても数ヶ月以内には次の入居者が決まるため、長期間にわたる空室はあまり発生しません。
しかし、建物が古くなり入居者のニーズに合わなくなってくると、一度空室になると次の入居者が決まらず、長期間空室の状態が続くため、空室分の家賃収入が得られなくなります。 このようにしてアパートの入居率が50%以下になり、その状態が1年以上続いた場合、建て替えを検討すべきタイミングと考えられます。
高額な修繕費やリノベーション費用がかかる
築年数が古くなるとリフォームやリノベーションの費用が高額になる一方、家賃からはなかなか回収できず、かえって収支の悪化につながっていきます。 さらに、お金をかけてリフォームをしても、現在の入居ニーズに合わず、入居率の改善につながらない場合もあります。
このように、維持コストが収益に見合わなくなったときが、建て替えを検討するタイミングと言えるでしょう。
旧耐震基準のアパート
1981年6月以前に建築されたアパートは、築年数がすでに40年以上経過し老朽化が進んでいるだけでなく、もともと旧耐震基準による構造です。
近年は耐震性を重視する入居者が増えており、旧耐震基準のアパートは避けられる傾向があります。 また、耐震改修にも高額なコストがかかるため、改修が難しいアパートも少なくありません。
こうした耐震性の低いアパートは資産価値や入居者が低下しやすく、建て替えを検討するタイミングと考えられます。
アパート建て替えのメリット
収益性が向上し、キャッシュフローが増える
新しいアパートに建て替えることにより、家賃収入の増加や修繕費の軽減などによる支出の削減が期待できるため、収益性が向上し、キャッシュフローの増加が見込めます。 また、新しいアパートの場合、減価償却費やローンの金利部分を経費として計上できるため、所得税の軽減にもつながります。
建物の耐震性が向上する
特に旧耐震基準のアパートは耐震性に大きな不安がありますが、新耐震基準のアパートに建て替えることで、入居者が安心して住むことができます。
最新設備・間取りが導入できる
入居者が求める設備や仕様は、時代とともに変化します。 古いアパートでは対応できなくても、建て替えによって、省エネ性能、バリアフリー、最新の設備などを取り入れることができ、入居者のニーズに応えることが可能になります。
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資産価値が向上する
老朽化したアパートは資産価値が低下するだけでなく、維持費や修繕費がかかるため、相続人にとって負担となることがあります。 入居者がいない場合は、管理コストばかりが増えてしまうケースも少なくありません。
しかし、新しいアパートに建て替えることで、収益性が高く手間もかからない資産を相続人に残すことができます。 また、「きれいな財産を残す」という相続対策の観点からも有効な選択肢といえます。
相続税の節税が期待できる
相続税対策を考えている人の場合、土地の相続税評価額を下げることは重要です。アパートが建っている土地(貸家建付地)は、更地(自用地)よりも相続税評価額が低くなります。 ただし、評価額はアパートの入居率(賃貸割合)によって変動する点に注意が必要です。
▼貸家建付地評価額の計算式
- 自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
この計算式にある「賃貸割合」とは、実際に入居している賃貸面積の割合を指します。 たとえば、満室であれば賃貸割合は100%ですが、全て空室の場合は賃貸割合が0%になります。 この賃貸割合を計算式にあてはめると、賃貸割合が高いほど相続評価額が下がり、賃貸割合が低いと評価額が下がらないことが分かります。
新築アパートは入居率が高いため賃貸割合も維持しやすく、結果として相続税評価額を大きく下げることが期待できます。 さらに、建て替えローンを利用してアパートを建て替えた場合、ローン残高が債務控除の対象となり、課税対象額が減少するため、相続税対策として有効です。
アパート建て替えのデメリット
建築コストが割高になる
一般的に、アパートの建て替えは、更地に新築する場合と比べて事業予算が割高になります。 その主な要因は、解体費用と立ち退き料です。
アパートの解体費用は、建物の構造や敷地条件により異なりますが、木造が坪当たり5万円、鉄骨造が7万円、鉄筋コンクリート造が10万円程度かかり、総額で数百万円から1,000万円以上になることもあります。 そのほかアスベストの除去や地中の埋設物の撤去が必要な場合は、さらに多額の費用が上乗せされます。
また、入居者の立ち退きのために立ち退き料が必要になるケースも多いため、それらの金額も含めた事業計画を作成する必要があります。
入居者の立ち退き問題
アパートの建て替えで最も苦労するのが、入居者の立ち退きです。
仮に入居者の半数が住んでいなくても、まだ残りの入居者は住んでいます。 その入居者に対して「〇月〇日までに退室してください」と頼んでも、簡単に応じてもらえないのが現実です。
残っている入居者が立ち退かない限り、建て替えを進めることはできません。 そのため、立ち退き問題の解決は建て替えにおいて最も注力すべきポイントとなります。
建て替え期間中は収益がゼロになる
建て替えの場合、解体工事の開始から新築アパートの完成までは家賃収入が途切れます。 構造や規模、階数にもよりますが、3階建ての場合10ヶ月から1年程度、2階建てでも8から9ヶ月程度かかるため、主に家賃収入で生活している賃貸オーナーの場合、その期間の生活設計についても考慮する必要があります。
立ち退きの進め方

立ち退きの手続きを進めるにあたっては、まず借家権について理解しておくことが大切です。
借家権とは?
借家権とは、「建物を借りる権利(賃借権)」を指します。
借家権の契約形態には、定期借家契約と普通借家契約の2種類があります。
定期借家契約(契約満了で退去が義務付けられる)
定期借家契約は、1992年に施行された借地借家法により創設された契約形態で、契約期間が満了すると更新はなく退去が必須です。 そのため、立ち退きのトラブルが発生しにくく、スムーズに建て替えることができます。 しかし、定期借家契約の割合は、全体のわずか2.6%しかありません。
普通借家契約(契約満了後も入居継続が可能)
借地借家法の制定以前からある契約形態で、いまでも一般的に行われているのは、この普通借家契約です。 普通借家契約では、契約期間が満了となっても入居者が希望する限り住み続けることが可能です。
賃貸オーナーが契約更新を拒絶できるのは、入居者に契約違反がない限り、賃貸オーナーの「正当事由」が認められた場合のみです。 「正当事由」には、次のようなものがあります。
- 賃貸オーナーがその場所に住む必要がある
- 建物の老朽化が進み、危険な状態である
- 立ち退き料の提供の申し出がある
ただし、立ち退き料は、あくまでも他の正当事由を補完する役割を担うものです。 他の正当事由と立ち退き料をあわせて、はじめて正当事由が認められることになります。
なお、賃貸オーナー側の正当事由が認められない場合は、自動的に契約が更新される「法定更新」となり、入居者は引き続きアパートに住み続けることができ、立ち退きは困難になります。
立ち退きの手順
普通借家契約のもとで立ち退きを進めるためには、次の手順で行います。
- 入居者に対して、次回の契約更新時には更新をしないことを通知する。
その場合、明確な立ち退きの理由と立ち退きの期限を伝える。 - 立ち退き交渉に入り、立ち退き期限、立ち退き料、その他の条件について
入居者と合意に向けて交渉する。 - 交渉成立後、「立ち退き合意書」を作成する。
- 立ち退きが完了し、入居者に立ち退き料を支払う。
なお、立ち退き料の支払い方法は合意時一括支払いや分割支払いの場合もある。
通常、「1」の段階で、入居者からは主に次のような反応があります。
- 素直に立ち退きに応じる
- 条件付きで立ち退きを承諾
- 立ち退きを拒否
- 返事をしない。 あいまいな返事をする
賃貸オーナーにとってはAが最も望ましい反応ですが、現実にはBからDのケースが多く、引き続き立ち退き交渉を行わなければなりません。 その際、交渉をスムーズに進めるために、弁護士に代理人として交渉してもらうことも有効です。
なお、代理人になれるのは弁護士のみで、弁護士資格を持たない人が報酬を得る目的で代理人になることは弁護士法で禁止されています。 ただし、立ち退き料が140万円以内に収まる場合は、法務省認定の認定司法書士も代理人になることができます。
立ち退きにかかる期間は?
一般的に、立ち退きのタイミングは賃貸借契約の更新時期に合わせることが多いため、遅くても更新時期の6ヶ月前には立ち退きの通知を行うことが重要です。 交渉をよりスムーズに進めるためには、通知から立ち退き時期までの期間が長い方が望ましいと言えます。 たとえば、契約の更新時期に、「次回の2年後の更新時には更新をしない」といった通知を行うことで、より早い段階から交渉が始められ、スムーズに進む可能性が高まります。
目安として、立ち退きにかかる期間は、2年程度を見込んでおくと良いでしょう。
交渉によっては、立ち退き料の増額を提示するなどして短縮できる可能性もあります。 ただし、2年以上かかるケースがあることも念頭に置いておく必要があります。
立ち退き料の相場はいくら?
立ち退き料は、賃貸オーナーと入居者が個別に取り決めをするもので、決まった金額があるわけではありませんが、おおよその相場は数十万円から200万円程度になります。
立ち退き料の算出方法にはさまざまなものがありますが、ひとつの考え方として、引っ越し先の家賃の6ヶ月分に引っ越し代を加えた金額を立ち退き料とするケースがあります。
そのほかにも、以下のような計算式を元に算出するケースもあります。
- ①現在の家賃と引っ越し先の家賃の差額×2年分
+②引っ越し先の契約時費用(礼金、敷金、仲介手数料など)
+③引っ越し代
- ①現在の家賃と引っ越し先の家賃の差額×2年分
+②引っ越し先の契約時費用
(礼金、敷金、仲介手数料など)
+③引っ越し代
たとえば、現在の家賃が8万円、引っ越し先の家賃が10万円、引っ越し代が30万円の場合は、立ち退き料の目安は次のようになります。
- ①2万円×24カ月
+②30万円(礼金・敷金・仲介手数料が各10万円)
+③30万円=108万円
- ①2万円×24カ月
+②30万円
(礼金・敷金・仲介手数料が各10万円)
+③30万円=108万円
このように、立ち退き料は比較的大きな金額になることを理解しておく必要があります。
まとめ
アパートの建て替えを成功させるポイントは「綿密な事業計画」と「円滑な立ち退き」です。 事業計画については、建築会社や金融機関に相談し、建て替えのメリット・デメリットを十分に理解した上で進めましょう。
また、立ち退きを円滑に進めるために最も重要なのは、入居者との良好な関係を維持し、誠意を持って交渉することです。 人間関係がこじれてしまうと、入居者も意地になって退去を拒否する可能性があります。
まずは、入居者の立場を尊重しながら、少しずつ話をまとめていくことが大切です。 事前に立ち退きに詳しい弁護士に相談しながら交渉を進めることをおすすめします。
所有する不動産の建て替えや不動産投資をお考えの方は、下記よりお気軽にご相談ください。

ファイナンシャルプランナー・終活アドバイザー・不動産コンサルタント
橋本 秋人
1961年東京都出身。早稲田大学商学部卒業後、住宅メーカーに入社。
30年以上、顧客の相続対策や資産運用として賃貸住宅建築などによる不動産活用を担当、その後独立。
現在は、FPオフィス ノーサイド代表としてライフプラン・住宅取得・不動産活用・相続・終活などを中心に相談、コンサルティング、セミナー、執筆などを行っている。また、自らも在職中より投資物件購入や土地購入新築など不動産投資を始め、早期退職を実現した元サラリーマン大家でもある。
⇒橋本 秋人さんの記事一覧はこちら
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