
住宅の形態の一つに、店舗を併設した店舗付き住宅があります。 店舗付き住宅は新築で建てると注文住宅となることが多く、建てるにあたっては間取りを自ら検討しなければなりません。 店舗付き住宅では、「営業のしやすさ」と「住みやすさ」の両方をバランスよく追求することが求められます。 この記事では、店舗付き住宅の特徴やメリット・デメリット、間取りの注意点、住宅ローンなどをわかりやすく解説します。
- 店舗付き住宅は、第一種低層住居専用地域とそれ以外の用途地域で性質が異なる
- 店舗付き住宅のプランでは、店舗と住宅の出入口動線を分けることがポイント
- 店舗付き住宅は、一定の要件を満たすと住宅ローンを組むことができる
店舗付き住宅とは?
店舗付き住宅とは、店舗と住宅を一体化させた建物のことです。 一般的には、自宅の一部に自営の店舗を併設するスタイルですが、店舗部分を第三者に貸し出し、家賃収入を得る活用方法もあります。
いずれのケースにおいても、店舗部分は収益を生み出す重要なスペースとなるため、営業のしやすさを主眼に考えて設計することが望ましいです。
店舗付き住宅の種類
ここでは、店舗付き住宅の主な種類について解説します。
店舗建築が可能な用途地域に建てる店舗付き住宅
店舗付き住宅を建築する際には、「用途地域」による制限を理解しておくことが重要です。 用途地域とは、都市計画法に基づき、エリアごとに建築可能な建物の種類や用途を定めた制限のことを指します。
一般的に、店舗は「第1種低層住居専用地域」と「工業専用地域」以外の地域で建築可能とされています。 たとえば、商業地域や近隣商業地域では大規模な店舗も建築可能ですが、住居系の地域では小規模な店舗に限られるケースが多くなります。
用途地域別に許可されている物販店および飲食店の店舗面積は、下表のとおりです。

第一種低層住居専用地域に建てられる店舗付き住宅
第一種低層住居専用地域は、主に良好な住宅環境の保護を目的としたエリアであるため、店舗の建築には厳しい制限があります。 しかし、以下の要件を満たせば、店舗付き住宅を建てることも可能です。
具体的には、次のような要件を満たす必要があります。
▼第一種低層住居専用地域の店舗付き住宅の基本要件
- 店舗面積が50平米以下であること
- 店舗部分の面積が延床面積の2分の1以下であること
たとえば、店舗面積を最大の50平米とした場合、住宅面積も最低50平米が必要となります。 また、第一種低層住居専用地域の店舗付き住宅では「店舗と住宅が建物内で行き来できる構造」であることが条件とされることが多いです。
そのため、第一種低層住居専用地域の店舗付き住宅は「自営の店舗」を前提としており、実質的に第三者への賃貸は難しい構造となります。
店舗付き住宅のメリットとは?
店舗付き住宅には、住居と店舗が一体となっているからこそ得られるメリットがあります。ここでは、自営と賃貸の両方の観点からその利点を見ていきましょう。
自営なら通勤不要で店舗管理がスムーズに
店舗付き住宅は、自宅と店舗が同じ建物内にあるため、通勤の手間が一切かからないのが大きなメリットです。 移動のストレスがなく、開店準備や閉店作業にもスムーズに対応でき、時間を効率的に使うことができます。
また、子育て中の方にとっても安心です。 自宅にいながら子どもの様子を見守りつつ、店舗の営業や準備ができるため、家庭と仕事を両立しやすい環境が整います。 さらに、早朝の仕込みや夜間の在庫整理なども通勤時間を気にせず行えるため、店舗運営の柔軟性が高まり、日々の管理が格段に楽になるというメリットもあります。
条件を満たせば賃貸運用も可能
店舗付き住宅は、建設された地域の用途制限や建物の構造によっては店舗部分を第三者に賃貸することも可能です。
たとえば、第一種低層住居専用地域では、店舗と住宅が内部でつながっている必要があるため、第三者への賃貸は現実的に難しいといえます。 一方で、そのほかの用途地域であれば店舗部分を貸せる可能性はあります。
将来的にライフスタイルが変化した場合でも、店舗部分を収益源として活用できる可能性があるのは、店舗付き住宅ならではのメリットです。
店舗付き住宅のデメリット
店舗付き住宅には多くの魅力がありますが、注意すべきデメリットも存在します。
店舗の分だけ家が狭くなる
店舗付き住宅は、店舗スペースを確保する分だけ居住スペースが狭くなる点がデメリットです。 とくに、2階建てで1階を店舗にした場合、1階部分を居住スペースとして使えなくなるため、家族構成によっては生活空間が不足する可能性があります。
プライバシーやセキュリティの課題
店舗付き住宅は、プライバシーの確保が難しい点がデメリットです。 店舗には不特定多数の来客があるため、住居部分にも人の気配や視線が入りやすくなります。 また、敷地内に多くの人が出入りするため安全が侵されやすく、一般の住宅と比べると、セキュリティ面で不安が生じやすいというのが実情です。 そのため、防犯カメラの設置やセキュリティ会社への加入など、安全対策を強化することが望ましいです。
店舗付き住宅プランの間取りの注意点

店舗付き住宅を計画する際には、「店舗としての機能性」と「住宅としての快適性」の両立が求められます。 ここでは、間取りプランで押さえておくべき注意点について解説します。
店舗スペースは1階にする
店舗付き住宅では、店舗区画は1階にすることが必須です。 2階以上に店舗を設けてしまうと、来店のハードルが上がり、顧客数の減少や売上ダウンのリスクがあります。 また、2階以上の店舗は賃貸需要も弱いため、将来的に貸し出す場合の需要も限定的になります。
さらに、1階の店舗スペースは視認性や導線の良さが集客に有利であるため、1階配置がセオリーとされています。 加えて、店舗部分は可能であれば、柱のない「無柱空間」にするのがおすすめです。 無柱であれば自由なレイアウトがしやすくなり、用途変更や賃貸展開にも柔軟に対応できます。 無柱空間とするには、柱と柱の距離を広げる必要があり、太くて頑丈な梁(柱間の横架材のこと)が必要となるため、鉄筋コンクリート造や重量鉄骨造など、構造の選定も大切です。
店舗と住宅で出入口の動線を分ける
店舗付き住宅では、店舗と住居の動線を分けることが重要です。 店舗の出入口は道路側の視認性が良い場所に設け、顧客が入りやすい設計しましょう。 一方で、住宅部分は建物の側面や裏手など、プライバシーを確保できる位置から入れるようにすると安心です。
店舗の出入口はバリアフリー設計を意識し、車いすやベビーカーでも入りやすいように設計すると、来客層の幅が広がります。 また、店舗の正面を大きなガラス張りにすることで外からの視認性が高まり、集客力もアップします。
来客用駐車場を確保する
可能であれば、来客用の駐車場を確保することが理想です。 とくに、駅から離れた立地や郊外エリアでは車来客が主流になるため、駐車場がないと集客力に大きく影響します。
また、駐車場があれば、商品の搬入や関係者の出入りもスムーズになり、業務効率もアップします。 店舗の売上や運営のしやすさに直結する要素のため、計画段階から敷地配置を検討しましょう。
店舗付き住宅の住宅ローン
「店舗が併設されていると住宅ローンは使えないのでは?」と不安に思う方もいるかもしれません。 しかし、一定の要件を満たしていれば、店舗付き住宅でも住宅ローンを利用することが可能です。
金融機関によって多少の違いはありますが、一般的に次のような条件をクリアしていれば、店舗付き住宅でも住宅ローンを組むことができます。
- 住居(居住部分)の床面積が、建物全体の床面積の2分の1以上あること
- 店舗部分が自己使用(自営)であること
この条件からもわかるように、住宅部分の占める割合が大きく、自分で経営する店舗であることが前提です。 そのため、第一種低層住居専用地域などに建てるような「自営前提の店舗付き住宅」は、住宅ローンの対象となるケースが多いです。
また、住宅ローンを利用した際の住宅ローン控除(所得税の節税制度)も、居住部分の床面積が建物全体の2分の1以上を占めていれば、住宅部分に対して適用されます。 つまり、適切な設計を行えば、店舗付き住宅であっても一般的な住宅と同様に、所得税の節税効果を享受することができるのです。
まとめ
本記事では、店舗付き住宅の特徴やメリット・デメリット、間取りの注意点、住宅ローンの条件などについて解説してきました。
店舗付き住宅は、用途地域により店舗面積が制限される点が大きな特徴です。 自営であれば通勤や管理がしやすく、条件次第では賃貸も可能というメリットがあります。 一方で、住宅が狭くなったり、プライバシーが確保しにくいといったデメリットもあります。
間取りでは、店舗は1階に配置し、動線を分けて来客用駐車場を確保することが重要です。 住宅部分が全体の50%以上で店舗を自己使用する場合は、住宅ローンが利用できる可能性もあります。
店舗付き住宅のご相談は、下記よりお気軽にお問い合わせください。

不動産鑑定士
竹内 英二
不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、住宅ローンアドバイザー、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、中小企業診断士。
土地活用と賃貸借の分野が得意。賃貸に関しては、貸主や借主からの相談を多く受けている。
⇒竹内 英二さんの記事一覧はこちら
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