- 2024年4月1日より相続登記が義務化される
- 2023年12月から空き家対策特別措置法が改正される
- 腐朽や破損が始まりつつある空き家は売却がおすすめ
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相続不動産の名義変更の義務化
2024年4月1日より、相続した不動産の名義変更が義務化されます。
この章では、相続不動産の名義変更の義務化について解説します。
名義変更が義務化された背景
近年、社会問題化している不動産の一つに“所有者不明土地”があります。
所有者不明土地とは、不動産登記簿などの所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、または判明しても所有者に連絡が付かない土地のことです。
実際には土地だけでなく、空き家でも所有者が判別できない物件があるため、広い意味では空き家も所有者不明土地に含まれます。所有者不明土地は、東日本大震災の復興整備事業を行う際、所有者に連絡が付かない土地の存在が事業の障害になり、一時期大きな話題となりました。
所有者不明土地の発生理由は、主に相続後の登記がなされないことが原因とされています。
登記は所有者の権利を守るために行うものですので、本来的には義務化しなくても自然になされるのが理想です。 実際に資産価値の高い都市部の不動産は、義務化されなくても相続登記がなされている物件が多いといえます。
しかしながら、山林のような資産価値の低い不動産では、登記費用が発生することのデメリットが上回ってしまい、登記せずに放っておかれる不動産が多いです。
所有者不明土地は、今でも九州の面積を超える広さがあるとされていますが、このまま放置すると2040年には北海道本島に迫る水準にまで増加すると予想されています。 所有者不明土地をこれ以上増やさないようにするためにも、相続登記が義務化されることになったのです。
2024年4月から実施される義務化の内容
相続登記の義務化は、2024年4月1日より施行される予定です。突発的だと思うかもしれませんが、改正された不動産登記法は、実は3年前の2021年4月28日に公布されています。
法律は世間に公表される時点を公布、実際に運用される時点を施行と呼びます。
公布から施行まで約3年間も期間を設けるのは、珍しいといえます。 約3年間の周知期間を設けたのは、改正内容が極めて社会的インパクトの大きなものだからです。
相続登記の義務化が施行されると、2024年4月1日以前に発生している相続もすべて義務化の対象となります。 つまり、現時点(2023年11月)で相続登記が未登記であるものも、名義変更しなければいけません。
このような厳しい措置が設けられたのは、法改正によって所有者不明土地を削減するためです。
相続登記の期限は、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権の取得をしたことを知った日から3年以内」とされています。 また、義務化前に発生している相続の登記期限は、以下のいずれか遅い日から「3年以内」です。
- 自己のために相続の開始があったことを知り、
かつ、当該所有権を取得したことを知った日 - 民法および不動産登記法の改正法の施行日
正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、「10万円以下」の過料が定められています。なお、改正後は“相続人申告登記制度”という制度も始まります。
相続人申告登記とは、相続登記の義務を負う者が「登記簿上の所有者について相続が開始したことと、自ら相続人であることを申請する」制度のことです。
相続人申告登記は、相続人の1人が単独で申請できる点が特徴となります。 相続人申告登記は、登記簿上の所有者が亡くなっていることだけを公示する簡易な登記であり、相続登記ではありません。
ただし、相続人申告登記を行えば相続登記の義務は果たしたことになり、とりあえず過料は免れることになっています。
相続登記の手続きの流れと費用の目安
相続登記の手続きの一般的な流れは、以下の通りです。
- 司法書士に依頼する
- 司法書士から指示された書類を揃える
- 司法書士に登録免許税や手数料を先払いする
- 司法書士が相続登記の手続きを行う
登録免許税は、司法書士が代理で法務局へ支払うため、手数料も含めて司法書士に先払いすることが一般的です。司法書士手数料は、6~7万円程度が相場です。
また、登録免許税は以下の式で求められるものとなります。
登録免許税
= 固定資産税評価額 × 0.4%
空き家対策特別措置法の改正ポイント
空き家対策特別措置法とは、全国で増え続けている空き家を減らすことを目的とした法律です。
空き家対策特別措置法(空家等対策の推進に関する特別措置法)は、2015年5月に全面施行された法律で、2023年6月14日に改正されました。
比較的新しい法律であり、また、多くの人に無関係な法律であったことから、内容を十分に理解していない人も多い法律と思われます。
しかしながら、改正された空き家対策特別措置法は、多くの人に影響を与える可能性が出てきました。 この章では、空き家特別措置法の改正ポイントについて解説します。
今までの空き家対策特別措置法
改正前の空き家対策特別措置法は、特定空き家という制度により、社会問題となっている危険な空き家を解消する制度でした。
特定空き家とは、放置すれば倒壊など著しく保安上危険となるおそれのある状態の、一定の要件を満たす空き家のことです。 相当に腐朽しており、今にも崩れ落ちそうな空き家が、特定空き家に指定されます。
特定空き家に指定されると、所有者は行政から助言、指導、勧告、命令という順番で段階的に是正が求められていきます。命令まで無視すると、行政代執行という手続きにより、最後は空き家が強制的に取り壊されますが、取り壊し費用の負担は空き家の所有者です。
所有者が取り壊し費用を払えない場合には、土地も売却される仕組みとなっています。 つまり、空き家を放置し続けると、最終的には建物だけでなく土地まで失う可能性もあるということです。
特定空き家の制度では、行政の是正要求の中で勧告を無視すると、住宅用地の軽減措置が解除され、土地の固定資産税が上がるという仕組みがあります。
住宅用地の軽減措置とは、土地の上に住宅が建っていることで、土地の固定資産税が安くなるという措置です。
勧告を無視すると、土地の上に住宅があっても土地の固定資産税が上がってしまうことになります。 土地の固定資産税は、元の金額から3~4倍程度上がるというのが一般的です。
国土交通省では、2015年から2022年までに指定された特定空き家の是正要求別の件数を示しています。
助言から行政代執行までに至った件数は、以下の通りです。
是正要求 | 件数 |
---|---|
助言・指導 | 37,421件 |
勧告 | 3,078件 |
命令 | 382件 |
行政代執行 | 180件 |
出典:国土交通省 「改正空家法 施行に向けた空き家対策の現在地」
上表の中でポイントとなるのは、勧告に至る段階で件数が37,421件から3,078件へと大幅に減っているという点です。 多くの人が土地の固定資産税の上昇を懸念し、助言・指導の段階で何らかの対処をして勧告を回避していることがわかります。
そのため、住宅用地の軽減措置を無くすということは、空き家の解消に大きな効果があるということです。 特定空き家の是正状況だけを見れば、空き家対策特別措置法は空き家の解消に効果的な法律といえるかもしれません。
しかしながら、改正前の空き家対策特別措置法は、空き家の解消効果は極めて薄く、実効性が弱い法律となっていました。 改正前の空き家対策特別措置法の実効性が弱い理由としては、特定空き家への指定のハードルが高いからです。
国土交通省※では、平成30年度(2018年度)住宅・土地統計調査で「腐朽・破損あり」とされた100.6万戸の空き家のうち、特定空き家として把握されたものは4.1万戸であったことを公表しています。
出典:国土交通省 「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」
腐朽・破損ありの空き家のうち、特定空き家に指定されたのはわずか約4%の空き家だけです。 残りの約96%の空き家は腐朽や破損があっても特定空き家にもならないため、行政から助言や指導すら受けない状況となっています。
2023年12月から改正されるポイント
特定空き家の制度では、勧告によって住宅用地の軽減措置を外すことで空き家を是正する効果はありました。 一方で、そもそも特定空き家に指定されるものが少なかったことから、実効性が低いことが問題点となっています。
そこで、2023年6月14日に、新たに「管理不全空き家」という制度を設け、住宅用地の軽減措置を外す対象を増やすという改正を行っていました。
管理不全空き家とは、放置すれば特定空き家になる恐れのある空き家のことです。 特定空き家になるほど腐朽していなくても、ガラスが割れている、またはヒビが入っている程度の状況でも指定される可能性がある空き家とされています。
管理不全空き家に指定されると、行政から指導と勧告を受けることになります。改正法では、管理不全空き家で勧告を受けると住宅用地の軽減措置が外されるという点が大きなポイントです。
つまり、改正前は相当に腐朽し特定空き家に指定されて勧告まで受けないと土地の固定資産税が上がらなかったものが、改正後は管理不全空き家に指定されて勧告を受けただけで、土地の固定資産税が上がってしまうということになります。
国土交通省※では、平成30年度(2018年度)住宅・土地統計調査で「腐朽・破損あり」とされた100.6万戸の空き家のうち、市町村が把握する管理不全空き家は53.5万戸と公表しています。
出典:国土交通省 「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」
腐朽・破損ありの空き家の中で、特定空き家に指定される可能性のあるものはわずか約4%であったのに対し、管理不全空き家は約53%もあるということです。
改正によって住宅用地の軽減措置が外される可能性のある空き家が、約13倍(≒53%÷4%)も増える可能性があるということになります。
そのため、従来であれば行政から是正要求を受けることがなかった空き家であっても、改正後は是正要求を受け、住宅用地の軽減措置が外されることは十分に考えられます。
改正後はかなり早い段階で行政から是正要求が始まりますので、空き家を持っている人は改正内容を知っておくことが大切です。
改正された空き家対策特別措置法の施行は、公布の日(2023年6月14日)から6ヶ月以内とされていますので、遅くとも2023年12月中旬には施行される予定となっています。
現在空き家を保有している場合には、まずは空き家にガラスの割れやヒビが入っていないかなどを確認することをおすすめします。
不要な空き家は売却がおすすめ
空き家対策特別措置法の改正を踏まえると、腐朽や破損が始まりつつある空き家は早めに売却することをおすすめします。
相続物件の売却であれば、所有者を明らかにするために名義変更を行うことが必要です。相続登記せずに放置していた空き家であれば、相続登記の義務化をきっかけに、相続人同士で話し合って相続登記を行うのが良いといえます。
相続登記を終えたら売却できる状態になりますので、査定を依頼することから始めてみましょう。
まとめ
以上、相続不動産の名義変更の義務化と、空き家対策特別措置法の改正について解説してきました。
2024年4月から相続登記が義務化され、2023年12月から空き家対策特別措置法が改正されます。相続登記を行っていない不要な空き家があれば、まずは名義変更を行い、早めに売却することをおすすめします。
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竹内 英二
不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、住宅ローンアドバイザー、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、中小企業診断士。
土地活用と賃貸借の分野が得意。賃貸に関しては、貸主や借主からの相談を多く受けている。
⇒竹内 英二さんの記事一覧はこちら
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