- 空き家の対応には「保有」「活用」「処分」3つの選択肢がある
- 「保有」はゴールではなく、「活用」「処分」の準備期間
- 早めに計画し、障害を取り除き、スムーズに実行することが大切
実家が空き家になってしまったら
「実家の空き家」には、空き家になった実家を相続するケースのほか、親が介護施設などに入所して実家が空き家になっているというケースもあります。 また、現在は親が健在でも、将来亡くなったり施設に入所したりすると空き家になってしまう可能性が高い「空き家予備軍」もあります。
そもそも空き家はなぜ問題なのでしょうか。
それは、空き家を所有することで、さまざまな負担を背負うことになるからです。
空き家には大きく2つの問題があります。
ひとつは、近隣への悪影響です。
空き家は放置しておくと、安全上、景観上、衛生上などさまざまな面で近隣に悪影響を及ぼします。 いわゆる「ゴミ屋敷」「お化け屋敷」とよばれるような空き家があるだけで、周辺の不動産の価値が下落するケースもあります。 その結果、近隣との関係が悪化することもあり、精神的な負担にもつながります。
もうひとつは、「空き家のコスト」です。
空き家でも、固定資産税などの税金、解約しなければ水道・電気・ガス代などの光熱費、火災保険料、除草や剪定費用、修理費などさまざまなコストがかかります。
国土交通省の調査によれば、3分の2の空き家は1年間の維持費が10万円未満ですが、10万円以上20万円未満かかっている空き家が14.2%、20万円以上の空き家も15.2%あることが分かります。
出典:国土交通省 「令和元年空き家所有者実態調査 報告書」
また、マンションの空き家の場合、1年間に30万円以上の維持費がかかっている空き家が36.2%もあります。 マンションには管理費・修繕積立金など毎月の支払いがあるためです。
空き家にかかる維持費は、通常は所有している人が給料や預貯金などから支払わなければならず、大きな負担となることもあります。
このような問題を抱える空き家や「空き家予備軍」に対しては、どのように対応すれば良いのでしょうか。
空き家の対応策には、主に①保有する、②活用する、③処分する、という3つの方法があります。
空き家の対応 ①保有する
「保有する」とは、空き家を活用したり処分したりせずに、そのまま所有し続けることです。
保有する際には、次の3つのポイントを心がける必要があります。
「特定空き家」や「管理不全空き家」にしない
空き家を保有する際に最も気をつけたいことは、「適切に管理する」ことです。
特に、管理不全により空き家の劣化が進むと、安全上、景観上、衛生上などさまざまな面で近隣に迷惑をかけます。 さらに、市町村から「特定空き家」や「管理不全空き家」に指定されてしまうと、固定資産税が跳ね上がったり、50万円の過料を課せられたりすることもあります(※特定空き家・管理不全空き家については前編をご参照ください)。
一般的に、空き家は、人が住んでいる住宅よりも傷みの進行が速くなります。
古い家でも人が住んでいれば、空気の入れ替えをするので建物も傷みづらく、また、故障や外部の損傷があってもすぐに気がつくので迅速な修理や取り換えができます。
ところが空き家は、空気の入れ替えをしないので、空気の滞留や結露の発生などにより建物の傷みが進みます。 さらに水も使わないため、トラップ(キッチンや洗面所の排水管にあるS字型やP字型の曲がりのこと)に溜めている水が蒸発してしまい、雑排水や下水の臭いが部屋中に広がったりもします。 そのため、定期的に空気の入れ替えや封水(水を流してトラップに水を溜めること)をする必要があります。
このように、空き家も適切な維持管理をして、構造的にも機能的にも良好な状態にすることが重要です。
しかし、自分で空き家の管理を行うことに対して大きな負担を感じる人も少なくありません。 最近では、空き家管理サービスの利用が徐々に広がってきました。 空き家が遠方にある場合や、加齢にともない身体的な負担が大きくなってきた場合などに利用を検討したいサービスです。
一般的には空き家管理サービス業者が毎月1回の巡回と報告を行うサービスが基本ですが、料金によって庭の清掃やゴミ処理、郵便ポストの整理、換気・通水、室内清掃などさまざまなサービスが利用できます。 国土交通省の調査によると、空き家管理サービスを利用している人が支払っている料金は、全体の約7割が月額1万円以内となっています。 ただし、管理のサービス内容は業者により異なるため、事前に確認することが大切です。
維持管理のコストを下げる
前述の通り、空き家には維持管理費がかかります。 1年間の維持管理費は少額でも、空き家を保有し続ける限りその負担はずっと続きます。 長く保有した結果、維持管理費だけで数百万円かかったというケースも少なくありません。
そのため、空き家のコスト削減も重要です。
コストを下げるためには、小さな工夫の積み重ねが必要になります。
例えば、親が住んでいたときには50アンペアで契約していた電気も、空き家ではほとんど使わなくなります。容量を10アンペアに契約変更するだけで、基本料金が年間約1万5,000円も安くなります(東京電力管内・従量電灯B・C)。
また、水道についても、年に数回しか空き家に行かないのであれば、使用中止の手続きをしても良いでしょう。 その場合、空き家に行く際にポリタンクなどに水を入れて持っていくという方法もありますが、事前に管轄の水道課や水道局に連絡をすれば、一時的に水道を使用することができます。 その際に定められた水道料金を支払う必要はありますが、基本料金を払い続けるより水道代が節約できます。
このように、ひとつひとつの項目を見直すことにより、「ちりも積もれば山となり」コストの削減が図れます。
保有は「気持ちの整理」と「活用・処分」の準備期間
空き家を保有している限り、維持管理の負担は続きます。
そのため、空き家の保有は、空き家対応の最終形ではなく、あくまでも活用や処分までの準備の時間、気持ちを整理するための期間ととらえておく必要があります。
子ども時代から育ってきた愛着のある実家でも、空き家のまま保有し続けると経済的、精神的な負担が増していくため、永遠に持ち続けることはできません。 空き家の保有は、空き家の最終形を検討するために与えられた猶予期間と捉えて、次の準備にとりかかることが大切です。
空き家の対応 ②活用する
「活用する」とは、空き家または空き家が建っていた土地を第三者に貸すことにより、家賃、地代、駐車場代などの収入を得ることです。
空き家の活用は、次の3つの方法に分けられます。
建て替えずに活用
空き家をそのまま、またはリフォームして貸す方法です。
用途としては、貸家、シェアハウス、レンタルスペースなどがあります。 初期費用は抑えられますが、収益性は低くなります。
建て替えて活用
空き家を解体して、アパート、マンション、貸店舗などに建て替える方法です。
建築コストはかかりますが、人気のある立地であれば、建て替えずにそのまま貸すよりも高い収益が見込めます。
空き家を解体し、更地にして活用
空き家を解体したあとに建て替えをせずに、駐車場や材料置き場、借地として貸す方法です。
低コストでの活用ができますが、土地の固定資産税などが上がり、思ったほどの収益が得られないケースもあります。
空き家を活用することにより、次のようなメリットが期待できます。
- 収入を得ることにより資産形成ができ、老後の年金対策にもなる
- 空き家の維持費を支払う手段ができる
- 引き継いだ不動産を所有し続けることができる
- 借主や管理会社が管理してくれるため、空き家管理の負担が減る
反面、活用には次のようなデメリットやリスクもあります。
- 空室リスク
- 賃料下落リスク
- 金利上昇リスク(借入してアパートを建築した場合など)
- 修繕リスク(建物が古いため、思わぬ修繕費がかかることもある)
- 流動性リスク(貸していない土地と比べて売りづらい)
- 災害リスク(地震、洪水、土砂災害など)
- その他のリスク(入居者トラブル、事件・事故など)
空き家を活用することで得られるメリットもありますが、デメリットやリスクについても事前に想定した上で、活用するかどうかを判断することが大切です。
空き家の対応 ③処分する
「処分する」とは、空き家を手放すことを言います。
具体的には、売却のほか、贈与・寄付、国に引き取ってもらうなどの方法があります。
売却
空き家を売却するためには、一般的に不動産会社に売却を依頼します。
依頼の方法には、①一般媒介契約、②専任媒介契約、③専属選任媒介契約がありますが、その違いは下記の通りです。
上記にある「自己発見取引」とは、不動産会社ではなく、売主が買主を見つけてくることです。 隣家や友人、親戚などが直接買いたいと言ってきたときなどがこれに当たります。 このようなケースでは、一般媒介契約と専任媒介契約については、売主は媒介契約をした不動産会社を通さずに買主と直接契約をすることができます。 しかし、専属専任媒介契約だけは、たとえ売主が買主を見つけてきたとしても、不動産会社を通して契約しなければいけないため、仲介手数料が発生します。
また、「指定流通機構」とは、国土交通省が指定した不動産流通機構のことで、レインズとも言います。 全ての不動産会社が売買物件として登録されている不動産を閲覧することができるため、買主に適した物件を早期に見つけることができることで売主のメリットにつながります。
一般的には専任媒介契約または専属専任媒介契約が行われていますが、人気の高い立地にある空き家を売却する場合には、一般媒介契約にして複数の不動産会社に競わせるという方法も考えられます。
贈与・寄付
空き家を個人に贈与したり、団体や法人に寄付したりするケースもあります。 この場合、空き家を受け取る相手側の同意が必要になります。
また、空き家を受け取った側に贈与税が課税されるケースもあるため、あとでトラブルにならないよう詳細に打合せを行う必要があります。
国に引き取ってもらう
2023年4月27日から空き家の処分の選択肢が増えました。 それが「相続土地国庫帰属制度」です。
この制度は、相続や遺贈によって取得した土地が要らない場合に、国が審査の上、引き取ってくれるというものです。
ただし、土地が次の10の条件のいずれかに当てはまる場合、国は引き取りをしてくれません。
①建物がある土地
②担保権など使用収益権が設定されている土地
③現在、他人が使用、今後も使用される土地(通路、墓地、境内など)
④土壌汚染されている土地
⑤境界が不明の土地、争いがある土地
【申請を受け付けても不承認になる土地】
①崖(勾配30度以上+高さ5m以上)があり、管理に過分な費用や労力がかかる土地
②地上に通常の処分・管理を阻害する有体物(工作物、放置車両など)がある土地
③地下に除去が必要な有体物(産業廃棄物、ガラ、浄化槽、井戸など)がある土地
④隣地との訴訟によらなければ解決できない土地(袋地など)
⑤その他、通常の管理・処分をするために過分な費用や労力がかかる土地
実家を引き取ってもらいたい場合でも、①の通り、あらかじめ建物を取りこわして更地にする必要があります。 また、帰属の申請に当たり、土地1筆(登記簿謄本に記載された1つの土地)につき、1万4,000円の手数料がかかります。 さらに、帰属が認められた場合には、10年分の土地の管理費相当額を負担金として支払わなければなりません。
負担金は、土地の所在地や種別(宅地、田畑、森林、その他)によって決められた方法で計算します。 例として、市街化区域にある330㎡の宅地の負担金を計算すると、108万5,500円(10年分)が負担金となります。
空き家の処分は、空き家との関係を断つという意味で、空き家対応法の最終形と言えるでしょう。 相続土地国庫帰属制度について詳しく知りたい方は、法務省のホームページをご覧ください。
まとめ
空き家は持ち続けている限り、経済的・精神的な負担は続きます。
そのため、空き家を引き継いだ当初は「不動産」と思っていても、時間の経過とともに「負動産」と感じるようになる場合が少なくありません。
不動産を負動産と感じる前に、対応方法を考えて、早期に対策を実施することが、大きな負担軽減につながるでしょう。
現在空き家を所有していて、売却や土地活用をお考えの方は、下記よりお気軽にご相談ください。
ファイナンシャルプランナー・終活アドバイザー・不動産コンサルタント
橋本 秋人
1961年東京都出身。早稲田大学商学部卒業後、住宅メーカーに入社。
30年以上、顧客の相続対策や資産運用として賃貸住宅建築などによる不動産活用を担当、その後独立。
現在は、FPオフィス ノーサイド代表としてライフプラン・住宅取得・不動産活用・相続・終活などを中心に相談、コンサルティング、セミナー、執筆などを行っている。また、自らも在職中より投資物件購入や土地購入新築など不動産投資を始め、早期退職を実現した元サラリーマン大家でもある。
⇒橋本 秋人さんの記事一覧はこちら
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